地域ルポ 大人の雰囲気 渋谷・宮益坂 160万人の来街者を狙って
渋谷宮益坂は、渋谷センター街や公園通りと比べてハデさはないが、それでも東急本店通りや道玄坂商店街に比べて勝るとも劣らない賑わいぶりで、狭いエリアながら独自の商業集積を示している。宮益坂はJR渋谷駅をハチ公口とは反対の、青山および原宿方面に出た文字どおりに坂道の商店街だが、商店街の形成としては宮下公園近接地の明治通り沿いにも広がる。センター街や公園通りに比べボリュームとしての商業集積にはないが、しかし、ハンバーガーやフライドチキンなどのファストフードをはじめ、ビアレストラン、喫茶、スナック、お好み焼きなど大手外食チェーンの出店も目につき、センター街や公園通りほどではないにしても、感性の高い飲食ゾーンを形成している。また、このエリアへの来街者はサラリーマンやOL、ファミリー客など比較的“アッパークラス”が目立ち、ハチ公口に流れる客層とはやや異なるという印象を受ける。同エリアにおいては、「渋谷宮益商店街振興組合」(菅野今朝吉理事長)が渋谷地域「二一世紀の街づくり」の構想のもとに、「アーバンリゾートみやます」を基本テーマに掲げ、「リゾート・ステージ・レトロ・カーニバル・ニューライフ感覚」の五つを柱に、エキサイティングで感性ゆたかな街づくりを提案しており、二一世紀初頭において街の活性化が実現する。
渋谷はJR山手線、東急東横線、東急新玉川線、地下鉄半蔵門線、銀座線など五線が乗り入れる都内有数のターミナルで、駅前のバス利用を合わせると一日当たり一八〇万人前後の乗降者がある。
乗り換えもあるので、これらの乗降者がすべて渋谷の街に流れてくるとは限らないが、ディスカウントしても通勤、通学、ショッピング、レジャー客などと、一六〇万人前後の来街者があるものと思われる。
渋谷への来街者は、大半がハチ公口のスクランブル交差点を通過して、宇田川(センター街、井の頭通り)、道玄坂(文化村通り、道玄坂商店街)、神南(公園通り)方面の商業ゾーンに向かうが、渋谷は“若者の街”というだけあって、ほとんどが一〇代、二〇代のヤング層といった趣だ。
宮益坂はハチ公口の反対、東側に位置する。地番でいえば、渋谷一丁目、二丁目エリアで、文字どおりに坂道の商業ゾーンだ。
センター街や公園通りほどでないにしても、この通りと明治通りがクロスする宮益坂下(交差点)は、人の往来で渋谷らしい街の賑わいをみせている。
ハチ公口および山手線のガードを背に坂下の交差点に立つ。正面東方向にゆるやかなスロープをみせてストレートに伸びるのが宮益坂下の商店街だ。
坂下の交差点から坂を上がっていく。二〇〇mほどで国道二四六号線(青山通り)に接する宮益坂上の交差点に到達する。
片道二車線道路の両側をケヤキ並木の歩道が連なるが、飲食店など商店が多く存在するのは中腹の渋谷郵便局前辺りまでだ。
一方、坂下の交差点を南北に貫くのが明治通りで、交差点から北側(原宿方向)に向かって、両サイドに小さなビルの一階や二階、地下一階などに飲食店が軒を連らねている。
しかし、それも交差点から五〇mほどのところ、渋谷メトロプラザあたりまでだ。地域の商店街「渋谷宮益商店街」と称しているのは、このエリア、すなわち交差点を軸にして北および東側の半径二〇〇m前後のエリアを指しているのだ。
渋谷は道玄坂通りも坂の商店街で、歩道のケヤキ並木が心を和ませるが、宮益坂も明治通りも新緑のケヤキ並木が美しく、どこかヨーロッパの街並みをイメージさせる。
このエリアはまた、ハチ公口の商業ゾーンとは異なって、若い人の往来がありながらシックで、落ち着いた雰囲気を感じさせる。
周辺にオフィスビルが点在し、また、坂上先の青山通りに「こどもの城」や「国連大学」「青山学院大学」「青山病院」などの都市・文化施設が展開するので、この面でのビジネスマンやOL、学生、ファミリー客などが来街し、ハチ公口とはやや異なった客層の流れになるのだ。
しかし、表通りをブラつけば、マクドナルドをはじめ、ファーストキッチン、ケンタッキーフライドチキン、プロント、ドトールコーヒー、ラケル、ぼてぢゅう、天狗、ビアレストランライオン、銀座鳥ぎんなど大手ファストフードチェーンや喫茶、スナック、居酒屋チェーンなどの飲食施設を見つけることができ、地域の飲食ニーズが大きいことを理解することができる。
坂下の交差点の角地に一一階建てのビルがある。一階はあさひ銀行が入居するが、この地下一階に天狗チェーンが出店する。一〇年前のオープンで、店舗面積約八〇坪、客席数二六〇席の規模。
天狗は渋谷界隈にはこの店を含め、五店舗を出店しているが、来街者が多い地域だけにどこの店も連日の賑わいをみせている。
宮益坂店は天狗では中規模の店で、月商三〇〇〇万円前後を確保している。
このビルの前から一〇〇mほど坂を上がっていくと、小さなビルの一階に“二毛作経営”のプロントが出店している。九三年2月のオープンでFC店だ。
店舗面積二一坪。客席は昼四二席、夜四八席で、客単価は昼三五〇円、夜一八五〇円。客層は大半がサラリーマンやOL、カップルなどで、すでに都心においてはネームバリューもあるので、昼夜ともに安定した集客力を示している。
売上げは月商八〇〇万~一〇〇〇万円前後。
プロントの二軒先にKFCが出店している。九二年9月オープン。店舗面積二〇坪、客席数四〇席で、この店はヤング層(二〇代の女性が中心層)のイートインに加えて、OLや主婦などテークアウト客も多い。
イートイン六割、テークアウト四割の比率で、客単価は前者が六五〇円、後者が八〇〇円前後。
コンパクトな店であること、曜日に関係なく人通りが多い立地であるので、平日、土・日ともに集客は安定しており、月商一〇〇〇万円前後をクリアしている。
KFCの先は渋谷郵便局前の信号機の付く小さな交差点になっているが、この右角地に、例の安売りで名高い城南電機(一〇階建てビル)がある。
この家電ディスカウンターの存在は大きい。地域への集客力を発揮しているからだ。
横断歩道を渡る。渋谷郵便局はスクラップ&ビルドで、平成9年の完成予定で地上一二階、地下三階建ての工事中だが、このビルが完成するとさらに商店街への人の流れが高まるものと予想される。
この地点からやや坂上に上がったビルの地下一階にカジュアルレストランのラケルが出店している。昭和38年東京・虎ノ門に第一号店を出店して以来、地味だが着実にチェーン化を進め、現在、全国に直営一四店、FC一三店の計二八店を展開する。
渋谷には宮益坂店を加え渋谷駅南口店、公園通り店の三店を出店するが、宮益坂店は昭和55年のオープンだ。
店舗面積二三坪、客席数七〇席。小ぢんまりした店だが、キュートで温かみのある雰囲気が若い女性客の感性をとらえている。
この店の人気メニューはミックスオムレツ、サイコロステーキ&オムレツ、オムライス各種、ビーフハンバーグとオムレツなど。メニュー単価は五〇〇円から。セットメニューは一〇〇〇円から。客層はOL、女子学生ほか、カップル、サラリーマンなど。客単価は一〇〇〇円前後で、日商三五万円をキープ。
工事中の郵便局から坂下に向かって歩く。路地の角地にファーストキッチンが出店している。一六年前のオープンだが平成5年に全面改装したので店は新しくなった。
店舗面積五〇坪、客席数一〇〇席。ハンバーガーチェーンには珍しく、ピザ商品も提供する。中心客層はやはり二〇代の女性。しかし、近接地のマクドナルドと比較すると集客力は劣勢という印象だ。
坂下交差点から明治通りを行く。大手外食ビジネスでは小さなビルの一、二階にドトールコーヒー、ビルの地下一階にビアレストランのライオンが展開する。
地域の大型ビル「メトロプラザ」(地上一三階建て)にも大手外食チェーンが出店している。一階にプロント、天丼のてんや、二階にはルノアールなど。このビルには、これらチェーン店を含め仏料理で知られたヴァンセーヌをはじめ、イタリア料理ヴィーノ・アルベロ、ベンガル料理ベンガルなど一二店が出店しており、地域では最大の“飲食ゾーン”を形成している。
坂下交差点の角地近く、東映プラザビル(地上一一階、地下一階建て)の存在が目立つ。平成5年2月のオープン。地下一階と一階にゲーム施設タイトー、一~四階にディスカウンターのビックカメラ、七階、九階に東映系の封切映画館が入居する。
人の往来が激しいので、宮益坂界隈では最大の集客力を発揮しているという感じだ。
飲食施設では二階にマクドナルド、最上階の一一階には中国料理の摩天楼飯店が出店。マクドナルドは二五〇席の大型店で、コーク飲み放題、チーズバーガー一六〇円、ダブルバーガー二四〇円、ダブルチーズバーガー二七〇円の「バリュー価格」をキャンペーン中。