活気ずくNYレストラン “カジュアル化へ”大きな流れ

1996.01.15 93号 13面

クロス・カルチュアル・キュイジーヌ、アーキテクチュアル・クッキング、カジュアル・レストラン。ニューヨークにニュー・コンセプトがあふれている。しかし、料理の基本を踏まえず、目新しさを追いかけたり、物まねばかりが横行する事例があることも否めない。荒削りなこれらのニュー・コンセプトが、今後どのように研ぎ澄まされていくのか。ニューヨークのレストランの挑戦はまだ序章と言えるだろう。

以前、ニューヨークにおける外食といえば、FF、ダイナー(大衆食堂)、カフェ、コーヒーショップなど、伝統や格式とは無縁なアメリカらしさを象徴する飲食店が主流。レストランといえば一般的にフォーマル・フレンチのことを指し、ハイソサエティーのエリアと捉えられていた。イタリアン、中華、その他エスニック系のレストランについては、それぞれ各国のリトルタウン内に存在するものでしかなかった。

だが、そのようなレストラン業界が、ここ一〇年で急激な変化を遂げている。

いまやフレンチ以外のエスニック系レストランがニューヨーク中に軒を連ね始めているのだ。民族のコミュニティーエリアであるリトルタウン育ちの第二世代、第三世代、そして新たな民族の入植者らが、レストラン業界に進出し始めたからである。それに伴い客層もフレンチ以外のエスニックに興味を持ち始め、レストランに対する認識も変わり始めたと言われている。

エスニックレストランの台頭でフレンチ一辺倒の風潮に終止符が打たれた昨今、新たな波が押し寄せている。各国、各地の素材、スパイス、そしてテクニックをミックスするクロス・カルチュアル・キュイジーヌ(ニューヨーク・フュージョン・キュイジーヌとも言う)と呼ばれる潮流である。

それらには、ベースをフレンチとしエスニックの素材やスパイス、テクニックをたくみに取り入れるケースが多い。例えば、フレンチに中華料理、あるいは日本料理、韓国料理、タイ料理などをあわせたスタイルである。このようなアジアン・テーストが注目される背景には、ここ数年急激に広がっているダイエット、ヘルシー志向の存在がある。アジアの素材やスパイス、テクニックがそれらに適すると受けとめられているのだ。もはや資質に偏るフレンチスタイルは敬遠されていると言って良い。

もう一つの流行は、アーキテクチュアル・クッキングと呼ばれる高さを強調する盛り付けだ。料理を高層ビルのように高々と盛り付けるこのプレゼンテーションは、ニューヨーク・クッキングの巨匠とされる「ゴッサム・バー&グリル」のシェフ、アルフレッド・ポーテール氏により創造されたもの。日本の盆栽をイメージしたというユニークなスタイルと、盛り付けの均一化を図るシステマチックなコンセプトは、いまやニューヨークのみならず全米のレストランから注目されている。

そして業態のカジュアル化も大きな流れだ。ネクタイ着用といった従来の堅苦しいイメージを打ち消し、リラックス感を重視するレストランが主流となりつつある。これは、アメリカのベビーブーマー世代が、ミドル階級にシフトしたことが大きな要因だ。客層の世代交代にあわせて業態のスタイルも変わらざるを得ないのである。ダイナー、FF、FRなどの既存業態に飽きたらない、しかし従来のフォーマル・スタイル、ハイプライスのレストランでは堅苦しさが先行し楽しさが色あせる、といったミドル階級の新たなニーズがそれらの中間業態であるカジュアル・レストランを生み出したといえる。

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