伸びるニュー・マーケット「宅配寿司」 ピザより高い展開効率

1996.04.01 98号 10面

ここ一、二年、宅配ずし店が急激に増えている。早い、安いを売り物に従来の出前ずしを特化したものだ。オーナーにとっては、低投資、高リターンの店舗展開が最大の魅力だ。月商一〇〇〇万円以上、オーナー利益三〇〇万円以上も珍しくない。右肩上がりが当分続きそうな宅配ずし市場を検証する。

宅配ずしとは、出前ずし専門の業態である。オーダー後三〇分をめどに届けるクイックサービスと、店舗展開の高効率を反映した低価格設定が売り物だ。遅くとも三〇分~一時間で届ける、高くとも一般すし店の三分の二ぐらいの価格というのが一般的な上限である。

調理オペレーションは、すしロボットで握ったシャリ玉に、業務用スライスネタ、もしくは自前でさばいたネタを乗せるのが主流。最近はシャリ玉とネタをなじませるため、ネタを乗せて一度握るケースが多い。従業員は、社員一~二人、以下アルバイト数人である。

展開に際しては、イートインがない分、店舗面積や設備投資は厨房のみでよし。立地も店舗周辺に基準に満たす一定の世帯数さえあればよいため、既存飲食店に比べ出店範囲が広い。

店舗の初期投資は一〇〇〇~二〇〇〇万円、売上げは月商五〇〇~一〇〇〇万円が相場だ。

ネタの原価率は店舗内加工(自前)だと約三五%、業務用スライスネタだと約四五%。マグロは自前でさばき、ほかは半々というケースがほとんどで、ネタの平均原価率は約四〇%だ。

「クイックサービス」「低価格」「機械に依存した工場的生産」「低投資」「広い立地範囲」以上の宅配ずしのコンセプトは、宅配ピザに共通するところが多い。だが、宅配ピザにないメリットも数々ある。

■メリット(1)=ブーム的な宅配ピザに比べ、すしは日本の伝統食であり、食の嗜好ランキングでも老若男女を問わず常に一、二を争う人気メニューである。

■メリット(2)=客単価が高く(四〇〇〇~五〇〇〇円)、寄り合いからの大量オーダーも多い。

■メリット(3)=熱々のまま届けなければならぬピザは、一度の配達で一件しか回れない。だが、すしは常温に近いので五~一〇分違っても適温を保てる。つまり近隣なら一度の配達で二~三件の持ち回りが可能。アルバイトやバイクの保有数もピザ店の半数で済む。

■メリット(4)=土、日、旗日のオーダー集中率が極めて高く、人員管理や在庫調整がし易い。

■メリット(5)=出前・イコール・すし、といったイメージが根強い。

■メリット(6)=ガスをほとんど使わないので、厨房の作業環境が安全で快適。

■メリット(7)=宅配ずしはまだ目新しくシェア率を上げ易い。また、すしブランドの強みで、よっぽどまずくない限りリピーターがつく。

■メリット(8)=おいしいすしならばリピーターがつき易く、和食であるためリピーターのオーダー頻度も高い。従って販促費も少ない。

一般すし店をしりめに続々と増える宅配ずし店。一〇〇店を超えるチェーンは三社を数え、ほかのチェーンも次々に出店を加速している。現在、一般すし店では出前が売上げの半分を占める。宅配ずしがメジャー化すれば、一般すし店が大打撃を受けるのは必至だ。廃業の可能性も否めない。

「一般すし店は、お客に対するサービスを忘れた業態だ。価格設定が不透明で高い。出前が遅く、しかも出前だとネタが悪いこともある。一見客は常連客と差別される。このような不満を正す努力が欠けている。テークアウトの低価格すしや回転ずしが繁盛するのは、お客の求めるサービスを素直に追求した結果だ。クイックサービスを売り物とする宅配業態もそのひとつ。一般すし店と低価格すし店の中間の位置づけで今後定着するだろう」(宅配ずしチェーン社長)。宅配ずし店は一般すし店のすき間をついて一気に市場を拡大するという。

宅配ずしが現れたのは約一〇年前。非の打ち所のない業態であるのに、なぜ最近になって頭角を現し始めたのか。

「出はじめの宅配ずしは、オペレーションの効率化に走りすぎて、シャリ玉からネタにいたる食材は、すべて出来合いの冷凍食材だった。その食材の解凍も常温解凍するものだから、食材が遊離水分解を起こし、品質は最悪だった」(ある機械メーカー)

「店の信用を得ようとする飲食店の基礎すらなかった。チラシの写真でオーダーがとれればそれでよし、とする考えがほとんどで品質のことなどあまり考えない。調理は冷凍、解凍のみだから、店舗の初期投資もわずか五〇〇万円ぐらい。それで月商五〇〇万円以上上げるのだからボロ儲けもいいところ。信用がなくなったら二~三年で撤退し別の地へ、というケースも少なくなかった」

出はじめの宅配ずしは儲けばかり追って品質が悪く、長続きしなかったというわけだ。

だが、最近頭角を現し始めている宅配ずしは、そのように目先だけを考えたものではない。炊飯からネタさばき、握りまですべて店内処理をしている。いわばこれらのチェーンは宅配ずしのは第二世代といえる。新時代に突入し本格的な成熟期を迎える宅配ずしを特集する。

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