アポなし!新業態チェック(36)「KIMURAYA銀座木村屋本店」東京駅店
「あんぱん」で有名な東京・銀座の「銀座木村屋」は、去る7月31日に東京駅に隣接する地下街の東京駅一番街に、パンを中心としたメニューをバール風のスタイルで提供する「KIMURAYA銀座木村屋本店」東京駅店を開業した。店内は、モザイクタイルのカウンターや真っ赤なレザーのベンチシートを配したモダンなイタリアンテイストの内装デザイン。パンと相性のよいデリ惣菜を多数取り揃え、新しいパンメニューの提案を行うと同時に、バーカウンターにバーテンダーを置き、夕刻からはカクテルも含めた多種のアルコールメニューを提供する。
木村屋は創業140年という老舗企業であり、「あんぱん」や「ジャムぱん」など日本人の好みに合った独自のパンを生み出したことで知られる木村屋總本店のグループ会社。同店は、東京駅という立地を生かし、通勤客や20~40代の女性客などをターゲットに、さまざまなライフスタイルに対応する、新しいパン文化の発信を目指しているという。
銀座の本店ビル内では、高級なカフェやレストランなどを展開するが、今回、こうした商業施設内の独立店舗として、周辺の一般客層を集める飲食業態のために、「バール風オープンサンド」というメニューを新たに開発し、銀座本店のノウハウを生かしたグランドメニューと組み合わせている。
また、ディナー時間帯には、3種類のデリ惣菜とビールをセットにして900円で販売する商品を提供し、地下街で気軽に夕食を取りたい周辺のビジネス客などにも人気だ。
老舗ブランドの、今後の展開に注目が集まっている。
★けんじの評価
「あんぱんの木村屋」は食の業界でも別格の老舗である。何せ、銀座で「あんぱん」を売っているのだ。同社のホームページによれば、創業者の木村安兵衛氏が1874年(明治7)に考案した「酒種あんぱん」が、翌年には皇室の御用達となり、明治の半ばには「木村屋のあんぱん」が銀座の名物として有名になっていた、ということだから、そこらの外食チェーンが逆立ちをしたってかなわないビンテージもののブランドなのだ。外食バブルがはじけたとたん、「家賃が高い」と、銀座から撤退していった多くの外食企業は、「ブランディング」の意味をもう一度よく考えた方がよいのかも知れない。
その木村屋が東京駅に出店した店は、一見、パンとはかけ離れたバーカウンターのあるバール風飲食店。その画期的な業態コンセプトには敬意を表するが、残念なことに、そうした企画があまり成功してるとは言い難いように感じる。
オープンしてまだ3ヵ月に満たない時期の臨店だが、恐らく、すでに当初の計画とは異なった営業へとシフトしているようだ。何より、外食マーケットの立地と価格帯についての理解が不足していると思われるメニューに原因があるのではないか。また、それに伴ってか、店舗のオペレーションもいくぶん混乱している。筆者の臨店時は、年輩の従業員が数人店内にいたが、客席への案内も中途半端だったし、フードのメニューブックを出し忘れたまま行ってしまった。
この立地で、同社の「品格」を維持したまま繁盛店となるには、「あんぱん」を創造した以上の妙案が必要になるのかも知れない。
(外食ジャーナリスト 鷲見けんじ)
●店舗概要
店名=「KIMURAYA銀座木村屋本店」東京駅店/開業=2009年7月31日/所在地=東京都千代田区丸の内1-9-1 東京駅一番街B1/席数=48席
◆鷲見けんじ=外食チェーン黎明期から、FFやFRなどの動向を消費者の目線で見続けてきたアンチグルメな庶民派ジャーナリスト。甘口辛口を取り混ぜた乱筆乱文でチェーンの新業態をチェック。