フードコンサルティング 上場企業にモノ申す(6)三光マーケティングフーズ 低価格居酒屋の次は?

2012.01.02 394号 18面

 ◆低価格居酒屋ブームの火付け役

 「金の蔵Jr.」「東方見聞録」「月の雫」など、首都圏では知名度の高い居酒屋を展開するチェーンである。月の雫は、90年代の個室居酒屋ブームの先駆けとなったお店で、都内に多く見られる「月の~」という類似業態の「元祖」といわれている。

 金の蔵Jr.は、いま流行の「ワンプライス低価格居酒屋」ブームの火付け役ともいうべき存在であり、270円均一という驚異的な低価格を武器に、都心中心のドミナント出店をベースに、最近では地方のFC店がオープンするなど、直近の2011年6月期末時点で97店舗を擁するまで拡大し、今なお出店が続いている。

 金の蔵Jr.は、リーマン・ショック直後の2008年12月に1号店がオープン。世界的な経済危機を受けて以前より計画していた低価格業態をさらに進化させ格安業態としたもの。これぞ、「三光マーケティングフーズ」との社名の通り、社会情勢や顧客の価値観の変化を機敏に捉えて経営に反映させていく同社の真骨頂ともいうべき展開力ではないだろうか。それでも当初は300円均一だったものを、次第に「299円均一→270円均一」と、同業居酒屋チェーンが次々と低価格業態に参入する現実を踏まえ、単価を抑えていかざるを得なかったようである。

 ◆上場会社なのに本社はビル地下

 同社は、れっきとした上場会社(東証2部)であるが、その本社は東京の池袋駅から徒歩10分、築20年以上のビルの、なんと地下フロアに入居している。上場会社の本社というと都心一等地にあるオフィスビルの上層階を想像するが、同社は地下フロアに試作用テストキッチンまで備えた本社機能を、コスト削減のため2009年2月に新宿の高層ビルから移転させている。

 業績面も、上場外食企業の中では比較的堅調であり、外食業界にデフレの影響が深刻化し始めた2008年6月期以降も、毎期20億円以上の安定した利益を計上し、配当も継続している。

 これは、時流に合わせた業態開発と、積極的な出店戦略の賜物であり、固定費は極力抑えて成長に必要な投資を優先するという、経営の教科書通りの堅実かつ現実的な経営方針の成果であろう。

 「焼き牛丼」で脱居酒屋目指す?

 機動的かつ堅実な経営を続ける同社には、経営面で全く死角がないようにも見える。それでも、デフレの影響や消費者のアルコール離れなど、居酒屋業界を取り巻く厳しい環境は同社の経営にも少なからず影響を与えているようだ。

 それは、東方見聞録と月の雫という個室居酒屋として成功した業態まで低価格コースを導入したり、店舗によっては、金の蔵Jr.と同じワンプライス低価格業態に転換するなど、なりふり構わずに必死で顧客をつかもうとしている姿が物語っている。

 一方で、厳しい居酒屋業界でサバイバルしながらも、FF業態の開発も進めている。今年に入り、「東京スパゲッチ」(パスタ業態)と「東京チカラめし」(牛丼業態)という食事系業態を相次いで立ち上げており、特に「焼き牛丼」という新たな名物を打ち出した東京チカラめしは、マスコミにもたびたび取り上げられており、FC加盟の引き合いも多いようだ。

 同社には、今のところ新たな成長戦略を実現するだけの財務的な余裕と幹部人材、優秀な経営陣という恵まれた要素が揃っている。

 そうであるなら、当面は低価格居酒屋業態を主力としつつも、さらに食事系業態の開発と出店に注力しながら、アルコール業態に依存しないバランスの取れた経営体質を早期に確立していくことこそ、長期的な生き残りに必要だろう。

 ●フードコンサルティング=外食、ホテル・旅館、小売業向けにメニュー改善や人材育成、販売促進など現場のお手伝いを手掛ける他、業界動向調査や経営相談などシンクタンクとしても活動。

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