食品企業におけるパーパス経営の先進事例:田丸屋本店・望月啓行社長に聞く
◇株式会社田丸屋本店 代表取締役社長 望月啓行氏
インタビュアー:加藤孝治
インタビュー日:令和6年2月20日
インタビュー場所:田丸屋本店(静岡県静岡市)
※社名・役職はインタビュー当時のものです。
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望月社長(以下、敬称略):わさびは日本原産の香辛料であり日本各地で自生していましたが、栽培は400年前に静岡の有東木(うとうぎ)で始まりました。わさびは静岡の誇るべき作物であり、ユニークな食文化としてソウルフードともいえると思います。
現代の代表的な食べ方である、わさびの根をすりおろして食べるようになったのは江戸時代の文化・文政の時代にお寿司の文化が始まったころからだと言われています。それまでも、葉や茎の部分も全部食べていたと思いますが、辛味が一番強いのが根の部分なので、そこの商品価値が高かったということですね。
加藤:田丸屋さんの創業はいつでしょうか。
望月:静岡でわさび漬屋を始めたのは1700年代で田尻屋さんでした。わが社の初代も田尻屋さんで数年修行してから、1875(明治8)年に創業しわさび漬けを始めました。大きく伸びたきっかけは、1889(明治22)年7月に東海道線が開通した時にお土産販売を始めたところにあります。それまでわさび漬けは地元で食べているだけであったのですが、静岡駅で販売権を取得し独占販売することができたことで拡大しました。ちなみに、各地域の有名なお土産は、このタイミングに鉄道沿線で販売されたものが地域の特産になっている事例が多いです。
加藤:わさび漬けは保存できますから、旅行のお土産として家まで持ち帰られますね。
望月:わさび漬けはご飯を美味しく食べるお供に使えて、保存性があるということで多くの消費者から人気を得ました。そうして、わさびを静岡の文化として発信していったということです。
加藤:静岡のほかに長野も、水がきれいなところということで、わさびが有名ですよね。
寿司文化の広がりとともにわさびも普及
望月:わさびの栽培は静岡市が発祥ですが、1700年代中盤に伊豆へ椎茸の苗と交換ということで持っていき、そこでも栽培が始まりました。伊豆は水もきれいで環境も良いことと、最大の消費地である江戸に出荷やすいということで盛んになりました。そしてお寿司が普及するとともに、わさびが多く消費され、わさび栽培も盛んになったということです。
今は、伊豆のわさび田は観光の要素にもなっていますし、長野でも安曇野の大王わさび農場さんが有名ですね。
加藤:ちょうど江戸でお寿司文化が広がるとともに、わさびの需要が増えた時に、市場に近いということで伊豆のわさび栽培が盛んになったんですね。
望月:静岡県の今のわさび生産量は、中部エリア(静岡市)と東部(伊豆)エリアを比較すると、東部のほうが数倍あります。そしてそれを合わせると、静岡県のわさび(水わさびと畑わさびの合計)の産出額は日本一です。また、伊豆で考案された水わさびの伝統栽培(畳石式)のノウハウは中部エリアにも共有され、2018年には世界農業遺産に認められています。
加藤:世界農業遺産に選ばれているのは、伝統栽培の方法ということで、伊豆だけでなく中部エリアも対象なんですね。
望月:そうですね。また、わさびの輸出についていえば、1980年代にアメリカ中心に日本食がヘルシーだということで寿司ブームが起こった時に、静岡の企業ではないですが業務用わさび企業(金印、カネクなど)が輸出を拡大させました。ただアメリカ等で日本料理を食べるのは外食が中心で、今でも海外では家庭料理としては、まだ定着していないようです。
加藤:静岡わさびの伝統栽培の棚田は、外国人観光客にも魅力的ですよね。
静岡のわさび田、伊豆のわさび田まで、最寄りの駅から何分かかりますか。
望月:1時間以内ですから観光地としての価値は高いと思います。わさびという地域資源を観光や外食などのサービスとしてどう組み立てて発信するかはこれからも工夫が必要ですね。わが社もわさびをメインにしたレストランをやっていますが、訪日旅行客向けのグルメプラットフォームで日本食文化を発信するレストランなどを扱ってもらうことや、インターネットサイトを活用して、海外観光向けに「わさびコース」を売りだすことも行っており、効果がでています。
加藤:わさび生産農家が外国人観光客に対応するのは難しいでしょうね。
望月:そうですね。生産農家が観光客への対応がむずかしいということは十分に理解できます。いいわさびを作るのには、環境が非常に大切で湧き水がいつも出て、水温が一定した場所、少し火山の養分を含んでいるところが最適です。こうした環境を生かすことができれば、いいわさびができます。逆に、そういう環境でわさび田を持っている農家の人たちは、栽培技術の努力と合わせて良質なわさびを生産することができるので良いわさび作りに集中したいと考えています。
加藤:良い場所を確保できている人が有利なわけですね。
望月:そうですね。もちろん生産者の方々は非常にご苦労されて、様々な努力をされていますが、いい環境を持っているわさび農家は、栽培に有利な条件をもっていることにはなります。
加藤:大手メーカーが生産しているわさびと、静岡で栽培されている天然のわさびにはどのような違いがありますか。
望月:様々なメーカーのわさびチューブの原材料には西洋わさびが入っている場合もあります。西洋わさびは日本のわさびと同じアブラナ科ではありますが、違う作物です。あと、大手食品メーカーは海外に畑を持って、そこで栽培している原料を使っている企業もあります。
加藤:そう言う意味では、江戸時代から続く静岡で採れたわさびと、練りわさびは違うものもあるのですね。だから、良いわさびが取れる良い場所を押さえている農家は安定的に収入を得られるということですね。
望月:実際には、なかなかその良いわさび栽培環境が揃うところが少ないのです。一方で、わさびの需要は伸びています。海外の富裕層の方が好まれる和食ですが、これまでは西洋わさびでも良かったのですが、今は、本格的な高級な和食、本格的な寿司が好まれるようになり、本当のわさびを使いたいというニーズが増えています。
環境に大きく依存するので、供給をなかなか増やすことができない一方で、需要が増えている状況ですので、わさび栽培は他の農作物と比較すると後継者も含めて人気がある状態です。
加藤:後継者問題は、農業や水産業では悩ましい状況だと聞きますが、わさび農家は心配ないということですね。田丸屋さんは、わさびを仕入れてわさび漬けに加工して販売する製造加工販売業者ですが、地域のわさび農家の方々との関係はいかがですか。
生産者と共に付加価値を高める
望月:わが社は、「静岡の地域資源であるわさび文化を継承し、広げていく」をパーパスにしていて、わさびに付加価値をつけて、地域から発信して販売し、その収益をまた地域に循環させるということをミッションにしています。そのためにわさび農家の方々とは非常に良い関係をもち、わさびという素材の付加価値を共に考えて、いろいろな形で発信したいと考えています。わが社は、わさび田も持っていますし、食品加工もして、レストランも営業し観光もしています。いわば、わさびという地域資源で、「一社で六次産業」にも取り組み、静岡に賑わいを作り、わさびに関わる発信をできるだけやっていきたいと考えています。
加藤:わさびに付加価値をつけるという場合、どのような方法がありますか。
望月:例えばわが社は品質にこだわり、年に1~2回しか作らないわさび漬があります。生産者と一緒に最高級なものを作るために農家の方々に一番いいわさびを出荷して頂き、我々も加工工程を手作りにして、技術継承と技術向上に挑戦しています。その時に、今の顧客の嗜好などを話し合います。妥協せずに本当に美味しいわさび漬け、品質にこだわり、それに適した畑作りも話し合います。自分たちの畑を静岡市と富士宮市に持っていますが、その畑でどうしたらより良質なわさび作りができるかなどを生産者とも話し合いをしています。
加藤:わさびを農家から仕入れてわさび漬けを作るだけじゃなく、農家に対するサポートもしているんですね。
望月:わさびは、根っこ(地下茎)と茎のマーケットが違います。根っこを出荷した場合は、レストランで技術の高いシェフ等の意見をフィードバックして、そのような方にも認められるわさびをどうやって作るのかということを話し合います。この高品質な根っこを栽培できる環境が限られているので、収量には限界があり、新規参入もなかなか難しいところがあります。自然の環境を整えている生産者がより良いわさび作りを目指して、一層のクオリティアップを図っています。
一方わさびの茎の栽培は、比較的自然環境に依存しなくても可能なので、わさびという農作物の販売チャネルを広げていくために、茎の部分の加工を工夫して、新しい商品の開発に取り組んでいます。茎の部分の栽培は、ハウスでもできます。茎を使った商品で価値を付け、マーケットを広げることは可能性があると考えています。
わが社が取り組んでいる事例でいえば、コンビニエンスストアでわさび茎を使用した「わさび茎のおにぎり」や「わさびの稲荷寿司」等、また茎を使用したお土産品を開発したりしています。茎で新しい商品を作っていけば、面白い新しいわさびマーケットが生まれてくると思います。そうするとハウスを利用したわさび茎栽培の新規参入も可能になり、わさび市場が活性化していくと思います。
加藤:わさび市場を活性化させるために、そういう市場開拓をしているということですね。
望月:例えば、わが社では、2022年にNTT西日本様と鈴生(すずなり)様という地元の農業法人と3社でわさび産業振興の連携協定を結びました。現在の取組みは、辛みの強い茎のわさびを作って、茎でも美味しい、辛味がもっと味わえるような栽培方法開発に挑戦しています。
加藤:わさびの茎を活用するメリットをもう少し教えてください。
望月:根っこの部分が出荷できるようになるまでには、1年半から2年かかります。でも、茎は半年程度で出荷できます。だから、茎から付加価値のある商品ができるようになると、生産者にとっても収入のサイクルが早くなり、農業という面でも新しいメリットになることが期待できます。
加藤:なるほど。根っこを大きく作ろうとするには、1年半から2年かけて茎を落として根っこに栄養がいくような作り方をする一方で、茎でビジネスが成立すれば、根っこは大きくならなくてもいいので、茎をどんどん増やして半年サイクルで出荷できるようになるということですね。
望月:これまでも茎を捨てていたわけではありませんが、根っこと茎の値段の差が大きく茎の栽培に取り組むわさび生産者も限られていました。茎の付加価値を高めることで、新規参入者によって新しい市場が面白くなっていくと思います。健全な競争ができる条件が整えば、静岡のわさびマーケットもさらに活性化できるのではないでしょうか。
地域に必要な企業であり続ける
加藤:大変面白いです。ところで、社長はこれまでの田丸屋の150年の歴史を振り返り、今の時点で変えるところと変えないところという点で意識していることはありますか。
望月:私が本当に強く思っているのは、「地域に必要な企業」であり続けるということです。私たちの企業が、この静岡の地で必要であり続けるということが大事だと思っています。
加藤:わさび漬けにこだわるということで、今の時代だからこそ、ものづくりと地域の関係が重要になっているということでしょうか。社長は、意識的に地域文化の発信とわさびをつなげようと考えるようになったということですね。変えていない部分は、「ものづくり」のこだわりでしょうか。
望月:ものづくりのところですね。あとは、わさび農家との関係性も大切に考えています。それこそ100年以上付き合っている農家さんもいます。そういう意味でわさび農家との信頼関係はわが社の非常に大きな強みであると考えています。長い歴史の中で、わさび農家と私たちのようなわさび加工業者の関係性、わさびのステークホルダーの関係が古くからしっかりと構築され、それが静岡のわさび食文化となっている。静岡のわさび文化をみなさんと一緒に支えているという感じですね。
加藤:御社がわさび農家の生計を支えているわけではないが、双方が力を出し合ってわさび文化、わさび漬けの文化を支えているということですね。
望月:静岡は、わさびの生産地というだけでなく、様々なわさび加工品もあり、トータルなわさび県であるということを情報発信しています。その「静岡=わさび」というようなブランディングを、ステークホルダー全員で支えていると思っています。それが農家にも私たちにも最終的にはいい効果につながっています。ただ、残念ながら、私たちが考えているよりも、全国的には「静岡=わさび」の意識は定着していないかもしれません。国内の生産シェアや歴史を考えると、もっとこのことを皆さんに知っていただきたいと思いますので、もっと発信していきたいと思います。
加藤:今、行政と生産者・販売者がスクラムを組んで、強く発信していこうとしていると理解しました。正直言って、「静岡=お茶」のイメージは強かったのですが、わさびも売り込んでいこうという感じでしょうか。
望月:そうですね。静岡の方々にとって、わさびについてもっと地元の産品として自信と誇りを持つようにできればと考えています。
日本の生産現場は訪日客にも魅力的
加藤:現在の静岡の食品市場の活性化について、インバウンド消費に対する積極的な取り込みが必要だと理解できました。きっと、静岡だけでなく日本各地でこれから取り組むべきことはたくさんあると思います。それを各地域で、海外に対し文化としての情報発信をできているところとできてないところがあるように思います。
日本人が考える地域の情報発信力と外国人の着目しているポイントは少し違うように感じています。先ほどの話題でいえば、静岡のわさび田は情報発信したら、外国人にとってすごい魅力的なところになると思います。それが、地域の取組みが十分でないことで情報発信力が弱くなり、せっかくの文化遺産を魅力的なものとして集客できないとしたら、もったいないなと思います。
望月:日本の農林水産物の生産現場は、生産拠点としてだけでなく観光的な魅力も多分にあると思います。私たちは、わさび漬工場に関しても、「見る工場」にして、その中に「わさび辛み体験室」という形でわさびを絡めた体験ができるところを作っています。その施設に対し、先日もオーストラリア人の観光客の方が来て、「わさびシャワー!」といってすごい楽しんでもらえました。こういう体験をしていただくことを通じて、価値を発信することに力を入れることも大事だと思っています。
加藤:御社として静岡の活性化という意味での社会貢献については、わさびの生産に対する取組みのほかに、観光に対して貢献できることがあるということですね。
望月:その通りです。そのほかにも、加工販売以外にレストランも運営しています。わさびを使えるメニューを広げること、そしてその情報発信の場は必要だと思います。「食文化」は、食べ方を理解して広がるもの。そういう意味で飲食の機会で様々なわさびメニューを提供することは非常に大事だと思っています。
また、現在の他の取組みとしては、他社と連携して、わさびと他の農作物とのコラボを考えています。様々な高品質な農作物あるいは海産物との組み合わせを考え、小ロットの食料加工品ができるよう社内に特別なラインを作っています。それは「クラフトライン」と呼んでいますが、手作りの少量ラインで、地域エリアの余った農作物とか水産物を有効活用する目的でつくっています。農家の人たちは、旬の時期でないと農作物の販売が難しく収入になりにくいのですが、それに販売期間を長くして新たな加工品として価値をつけていこうという取組みです。これができれば農作物が年間販売できるようになり、農家の収入も安定すると思います。
加藤:今の時点で、「わさび+X」という形で具体的な取組みで公開できるものはありますか。
望月:すでに商品化されているものでは、しらすを使った取組み等がありますね。わが社が生産ラインを提供して、いろいろな食品関連会社や、プランニング会社から話が持ち込まれているところです。我々は、静岡の食品業界のチームの一員として新しい形での地域の農作物の活用を考えています。例えば、静岡をオリーブオイルの産地にしようと考えて起業している「クレアファーム」と連携し、わさびとのタイアップ商品を開発しました。オリーブオイルをわさびとしらすなどの静岡の名産品で漬けた「静岡産わさびとしらすの食べるオリーブオイル UMAMI OIL」という形で商品化してヒット商品となっています。今うちが取り組んでいるのはわさび漬けというより、わさびの可能性を食品加工品としてどう引き出すかという発想で取り組んでいます。まだまだわさびの可能性は、たくさんあると思っています。
加藤:御社と地域のベンチャー企業が一緒になって、地域の農業とコラボするイメージですね。御社を通じて、わさびの可能性が広がれば、地域の活力につながりますね。
望月:地方の中小企業が生き残るためには明白な強みがないといけないと思います。わが社の強みは静岡の「わさび食文化」をになっていることです。わさび食文化を継承していくには、市場を広げ成長させる必要があると思います。その中から生まれる新しいわさび食文化を後世につなげていく。そのためには、わさび農家などの生産者と、我々のような加工業者・卸業者と、そして行政機関が一緒に取り組む必要があると思います。
加藤:日本の食品の中でも日本酒とか果物や水産物などは、海外で鮮度が保たれた状態で出荷できれば、国内とは比較にならない高価格で取引されていると聞きます。今後、外貨獲得という意味で考えても、日本食は魅力的輸出商品になると思います。だからこそ、望月社長がおっしゃるように、生産量とコストの削減など採算ベースに乗るようなビジネスモデルを作る必要があると思います。
御社のような立場では、商品の品質の違いがわかる企業として、静岡のわさびを買ってくれる海外の富裕層に受け入れられる商品を開発することがターゲットになるのでしょうか。
望月:わさびは、あくまで食品の中で脇役ですが日本食の特徴を示すうえで、品質が高ければ存在感をアピールできます。農作物としても加工品としても高品質なわさびは食材として強みを生かせると考えています。例えば、わが社は新しいわさびの形態として「調味料」へチャレンジしています。例をあげると、「わさビーズ」という商品はわさびの辛みをカプセルに注ぎ込むことで、肉にのせて風味を出すなどの使い方ができます。
ほかには、ドレッシングとして利用できるように工夫したりしています。わさびは、海外でも様々な可能性で展開できると考えています。
加藤:海外でのわさび生産について教えてください。
望月:海外で日本のわさびと同じ品種を現地で栽培している企業があります。日本原産の苗を、例えばオーストラリアとかカナダとかイギリスに持っていって栽培しているということです。クレソンの水耕栽培の農場の環境が結構似ているようで、クレソン農家さんがわさびを作るという例もあります。
でも基本的にわさびは日本原産なので、高品質なわさびはまだ海外ではできていません。そこは世界に誇れる強みだと思っています。海外にはわさびと同じアブラナ科で西洋わさび(ホースラディッシュ)があり、同じ成分も入っていますが、日本原産のわさびにはより複雑な辛味成分があり、それが日本独特の辛みになっています。
従業員との関係も現代に合わせてアップデート
加藤:従業員満足度を高めるために、望月社長は何か取り組んでますか。
望月:私たちの企業は150年近くの歴史がありますが、昔はファミリー企業というと、番頭さんがいて、従業員は住み込みもあり家族当然という形でなりたっていた時期もあったと思います。でも、時代は異なり今の令和の時代はそのようなスタイルではファミリー企業といえども通用しません。
さらに、個人的な意見ではありますが、資本主義自体の形も少しアップデートしていく必要があるように感じています。というのは、労働者・雇用者と資本家が上下の関係ではなくて、同列のヨコの関係として捉えることができるようにみんなが工夫する必要があると思っています。そのヨコの関係になるために、どういうコミュニケーションを作っていけばいいかということが重要です。そのために「パーパス・ビジョン」を共有しこの目的をかなえるために、全員の知恵を結集し様々な技術革新を最大限に活かして新しいビジネスの形をつくっていくよう、これから模索していかなくてはいけないと考えています。
加藤:御社はファミリービジネスとして経営されていますが、望月社長と従業員の信頼感、距離感については、どのようにお考えですか。
望月:従業員と私の距離感は近いと思いまし、近くありたいと思っています。当社に社長室はなく、事務所の中に私のデスクがあるので、従業員みんな何かあれば、どんどん相談に来ます。何かあればすぐに僕の席に来て「これやりたい」とか「これお願いします」と話しかけてくれます。また、ビジネスチャットツールやSFAツールも導入し全員がつながっており、リアルタイムで情報共有をしています。これらを利用し役職に関係なく連絡ができフラットなシステムになっています。組織運営上は、管理職がある程度締めて、社長に通す案件と通さない案件を分けたほうが良いかもしれませんが、うちはすぐ共有されます。これらにより格段にスピードも上がります。
加藤:有難うございます。最後に、新たな事業への取組みについて、もう一度確認できますか。
望月:そうですね。先ほども説明したわさびの茎を利用した新市場開拓があります。わさびという地域の農作物の新しい付加価値を掘り起こしていくのが大きな目的にあります。もう一つの取組みは「わさび」の強みをどうやって加工品として付加価値化していくかがあります。そのために新しい開発の試みを常に模索しています。わさびのメニューや活用法は、唐辛子に比べるとまだまだ少なく、開発余地は大いにあると思っています。新たな食としての利用法とか、利用される食シーンとか、ターゲットとなる顧客のイメージとかをもっともっと自由な発想で考えていきたいと思っています。
あとは、6次産業的なアプローチも強め、「静岡のわさび」を農業・製造販売・観光等様々な業態で情報発信をもっとしていきたいと考えています。
他にも、企業の責務として環境への取組みも含めた商品へのチャレンジも増やしていければと考えています。同じく漬物の企業である季咲亭様とのコラボで「わさびメンマ」という商品を開発しました。これは地域の放置竹林の問題を解決するためにも役立てたいと、地元の竹林からメンマを採って、わさびの味をつけて販売しています。日本の竹林から採ることで、価格は高くなっても、地元の問題解決につながると消費者の方々にも評価してもらっています。
加藤:幅広い分野からのお話をお聞かせいただきありがとうございます。御社が、商品開発や機能性の追求、地域産物の活用、そしてフードロス対策まで様々な切り口で取り組んでいることがわかりました。ありがとうございました。
◆略歴
もちづき・ひろゆき 1988年、大東文化大学法学部卒業。1995年、味の素株式会社退社。1995年、株式会社田丸屋本店入社。2007年、現職へ。