外食の潮流を読む(124)食材も店舗空間もすべて「八丈島」 強烈な個性で居酒屋の特徴顕著に
さる7月15日、JR目黒駅から徒歩3分あたりに「八丈島郷土料理 源八船頭」(源八船頭)目黒店がオープンした。同店は、初代オーナーが1980年に東京・小岩に創業した居酒屋。初代オーナーは東京・八丈島の出身で、八丈島の食材を使用した料理を提供することで、地域の客に加えて遠方からも来店するという根強いファンに支えられていた。それを、源八船頭(本社/東京都江戸川区、代表/黒田俵伍)が2019年に事業承継した。現在は、新店を加えて、東京と千葉に7店舗、ベトナム・ホーチミンに1店舗を展開している。
「源八船頭」は、同社が事業承継をしてから主に居抜きで店舗展開をしてきたが、今回の目黒の店舗は初めてオリジナルの造作を施し、家具や調度品などもオリジナル品で「八丈島」の伝統的な民家のイメージを創り出している。店舗規模は40坪・68席と広く、「源八船頭」の存在感を強く発信している。
「源八船頭」の特徴ははっきりとしている。それは、メニューを見ると一目瞭然で、八丈島の食材をふんだんに取り入れていることだ。
まず、「八丈島」を象徴する食材は「明日葉(あしたば)」という野菜。名前の由来は「今日新芽を摘んでも、翌日にはまた新しい芽が出てくる」といわれるほどの強い生命力を持っていることから。別名「八丈草」ともいわれ、独特の苦みを持つセリ科の多年草である。
同社では、明日葉を八丈島の契約農家を中心に仕入れていて、クオリティーが高く安定した明日葉を「源八船頭」を象徴する食材として活用している。明日葉には、香りや、茎の太さ、葉っぱの軟らかさ、といったさまざまな特徴が存在して、それぞれの持ち味を多様なメニューに生かしている。
同店の主力メニューを挙げると、まず「明日葉の天ぷら」(913円)。大きな葉っぱをカリカリの食感で楽しむことができる。また、「明日葉クサヤマヨネーズ」(880円)もよく考えられたメニューだ。クサヤは、強烈な食味が持ち味であるが、明日葉と一緒にマヨネーズと和えることで、親しみやすい珍味に仕上げている。
また、明日葉を漬け込んだウイスキーでつくる「明日葉ハイボール」(715円)は、口当たりがマイルドで薬用のような感覚。これを飲むことが目的来店につながるのではないか。
酒類にも「八丈島」のこだわりが満載されている。八丈島でつくられている焼酎は「八丈焼酎」や「島酒」と呼ばれ、島民から長く愛されてきたもの。同店では、八丈島のメーカーから直接仕入れていて、バラエティーを豊富にしている。
締めの食事は「島寿司」(1320円)をラインアップ。寿司のタネを醤油ベースのタレに漬けてヅケにし、ご飯はやや甘めの酢飯で握り、わさびの替わりにからしをのせている。
「源八船頭」の店づくりやメニュー構成には、同社の強烈な「八丈島愛」を感じる。このようなコンセプトが、これらを一度体験した顧客の記憶にしっかりと刻まれていくことだろう。
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。