トップインタビュー:日本マクドナルド・原田泳幸会長兼社長兼CEOに聞く

2005.11.07 307号 20面

昨年2月にIT業界から日本マクドナルド(株)CEOに就任した原田泳幸会長兼社長は、初年度で8年ぶりの前年比プラス、3期ぶりの黒字回復をやってのけた。重みゆえにだれもが恐れをなした33年の伝統と財産を背負い、日本マクドナルドの新たな成長の歴史をつづり始めた原田社長に、本紙社長・今野正義がズバリ成長のシナリオを聞いた。

‐‐たった1年で、どんな手を打たれたんですか。

原田 一言で言うと、「マクドナルドの強さ」に特化しました。経営不振になった時は、問題点ばかり見えるものです。しかし、問題があっても4000億円の売上げがある。この強さを全社で再認識し、すべての経営資源をこの原点に集中しました。

‐‐その戦略が正しかったのですね。

原田 業績が回復したことは事実です。05年度は、さらなる継続的成長を目指して4月から始めた施策の一つに、100円、500円、530円などのメニューからなる「ベストプライス」の施策があります。

‐‐4月からのベストプライスを含めたバリュー戦略が6月発表の下方修正の要因と取られているようですが。

原田 客単価減少による売上げと利益の減少は戦術の「ベストプライス」施策の一つの誤算であり、業績の修正に至ったことは痛烈に反省しています。ただ、バリュー戦略で客数は01年度のマクドナルド過去最高レベルの水準に戻りました。成長のための最初の目標は客数を獲得することでしたから、目的は達成しました。

そこで、今度は客単価を回復させるために7月から500円、530円などのセットメニューのプロモーションを始めました。8月上旬の数字では客数をほぼ保ちながら客単価が8%強回復しています。

そして、9月から「月見バーガー」など高付加価値の単品季節メニューを投入して、いつ行っても新鮮な感動のあるメニュー構成がスタートしています。

もちろん、100円メニューは継続しています。これが、今年行う継続的成長のための基礎づくりとなるメニュー面での戦術です。

‐‐犠牲を払っても、そこまで客数にこだわる要因は何ですか。

原田 ビジネスには徹底的にマスに絞るビジネスモデルと、あるターゲットに絞っていくニッチマーケットモデルがあります。当社は徹底してマスです。ただ、100円メニューは今までの商品を「値下げする」から、求めやすい価格でどれだけ「価値を作っていくか」という発想であり、大きな差があります。われわれのバリュー戦略は100円にどれだけ最大の価値を提供していけるかという作戦ですから、低価格路線の発想は社員にはありません。

‐‐今後の中・長期の成長のシナリオは。

原田 成長戦略を実践する時の第1ステップは、そのビジネスにいかにチャンスがあるかということに強い確信を持つことから始まるわけです。1年前の社員は「会社はどうなるんだろう」という不安感しかありませんでした。そこで、まずはどういうチャンスがあるのか、いろいろな切り口から検証して、それを社員に伝えたわけです。

‐‐1年間で社員の意識改革ができた、その秘策は何ですか。

原田 本当に秘策があったらお話しできないですね(笑)。

一つには、まずQSC(クオリティー・サービス・クリンリネス)は永遠のチャレンジと思っています。お客さまの期待値は上がり続けるものですから。

‐‐メニューや価格ならば、すぐに直接お客さまに伝わるのですが、QSCの効果は見えにくいのでご苦労はありませんか。

原田 4月のバリュー戦略を発表した時に「マクドナルドは見えないメニューを始めます」というマーケティングメッセージキャンペーンをスタートさせました。有形の商品をお届けするだけではなく、無形の価値をどう創造できるか、何がマクドナルドの無形の価値なのかという視点です。見えない企業の価値、お客さまに対する価値認識、これはやはり企業の信頼にもつながってきますし、お客さまに支持される原点だろうと思っています。

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