米国デザート事情:デザート御三家はチョコ系・チーズケーキ系・リンゴ系

2006.05.01 314号 2面

アメリカのデザートといえば、甘すぎ、多すぎもしくは大きすぎと思われている。確かに、一般的に日本人の口には甘すぎる。山盛りのアイスクリームをのせたアップルパイの大切れ。クリームチーズのフロスティングをこってり塗り重ねたキャロットケーキ。「アメリカのデザートは甘すぎる」と、ペストリーシェフ(パティシエ)暦20年、現在は製菓コンサルタントをしているジェフ・ヨスコウィッツさんでさえ言う。成人の3人に1人が標準体重オーバーという状況でありながら、甘い物を断ち切れないアメリカ人。甘い物好きのアメリカ人は、何を好んで食べているのだろう。アメリカのデザート事情を追ってみた。

移民の国アメリカにはそれぞれの民族的背景からさまざまなデザートがあるが、何と言っても、(1)チョコレートケーキやブラウニーなどチョコレートを使ったもの(2)チーズケーキ類(3)アップルパイなどのリンゴを使ったもの。この3種類がデザートの御三家だとデザート界の専門家は口をそろえて言う。

こうしたベーシックなデザートを機軸にしながら、日本ほど流行の移り変わりは激しくないながらも、流行が繰り広げられる。現在トレンドとして目を引くのが「レトロクラシック」「エスニック」「ソフィスティケーテッド(洗練)」と言えるだろう。

アメリカのデザート市場で、何と言っても一番人気のチョコレートのスウィーツ。日系のシュークリームのチェーン店「シューファクトリー」で一番よく売れるのは、カスタードのシュークリームでなく、チョコレートクリームだ。アメリカ人のチョコレート好きは統計にも如実に表れている。

アメリカのチョコレート生産・消費量は、2004年の統計で世界第1位の156万t。第2位のドイツの86万tを大きく引き離している。ちなみに日本は28万t。

チョコレートのデザートは押しも押されぬ定番アイテムで、チョコレートを使ったいろいろなスウィーツが入れ代わり立ち代わりトレンドになる。1年を通してみれば、冬場はリッチなケーキ、夏場はムースがよく売れる。

はやりのチョコレートのデザートで、最も目につくのが「モルトン・ケーキ」だ。クラシックなグルメデザートのモルトン・ケーキは、オーダーを受けてから焼くので、仕上がるのに15分ほどかかる。タイミングを逃すと中が硬くなってしまうので、注意を要する。

ニューヨークの高級ショコラティア「マリベル」の店内にあるカカオバーでも、数あるチョコレートデザートの中、モルトン・ケーキは一番人気のメニューアイテムだという。マリベルでは、塩味を効かせた生クリームと上品な甘さのマーマレードを添えて出している。人気の高さから、将来レストラン向けにバッチ販売する計画だ。

ケータリングで有名な「フード・フォア・ソート」のプランナー、エイドリアナ・ロジャーズさんも、最近のパーティーでは、きれいに飾ったシングルサービングのケーキのほか、「チョコレート・ファウンテン」がトレンドだと言う。

パウンドケーキのスライスや数々のフルーツをチョコレートがけして食べる、いわゆるチョコレートフォンデューだが、自分で好きなものを選んで作る楽しみもあり、パーティーの場の華やかな主役にもなる。

ケーキであれ、クッキーであれ、スフレであれ、チョコレートはどのジャンルでも圧倒的に支持され、各ペストリーシェフが腕を振るって独創的なチョコレートデザートを創り出しているが、すでに伝説的になったものとして名高いのは、映画にも頻繁に出ている人気の店「セレンディピティ」の看板商品である「フローズンホットチョコレート」だ。

14種類のチョコレートとココアを混ぜて作るというレシピは極秘で、ホワイトハウスのレセプションで出したいとケネディ大統領夫人に頼まれても明かさなかったといういわくつきのチョコレートスウィーツだ。1954年の開店当時からメニューにある定番アイテムで、即席ミックスも市販されている。

ちなみに、アメリカで一番売れている市販のクッキーは、ナビスコ社が1912年に発売した「オレオ」というチョコレートクッキー。2枚のチョコレートクッキーの間にバニラのアイシングを挟んだもので、そのまま食べるか、中のクリームを先に食べるか、ミルクに浸して食べるかが、話題の種にもなる。ほとんどのアメリカ人が子ども時代に深く付き合うクッキーで、発売以来94年たった今も売れ筋だ。

食後のデザートは、食事の印象を決定付ける。消費者の肥えた舌だけでなく目も楽しませるために、美しい装飾や盛り付けは、もはや引き戻せない流れになっている。

100種類以上のスウィーツをメニューに載せる有名なカフェレストラン「カフェ・ラロ」でも、ホワイトチョコレートのバラを飾ったケーキなど、見た目に美しいものがトレンドだという。おそらく人々は、日常から離れた別次元の体験をデザートに求めるのだろう。

小ぶりのケーキやパイにチョコレートなどのソースをかけ、アイスクリームやフルーツをあしらったデザートプレートの演出は、一般のレストランでも当たり前になった。前述のマリベルのチョコレートも、宝石のように美しいから人気があるのだろう。

その半面、バック・トゥー・ベーシックの機運もある。パーティープランナーのアンドレアさんもコンサルタントのジェフリーさんも、極度に豪華すぎるものはかえって気に入られない傾向があると言う。

ここ数年、古き良きアメリカへのノスタルジアが高まり、ミートローフとマッシュポテト、マカロニ&チーズなど、コンフォートフードと呼ばれる伝統的なアメリカの家庭料理が静かなブームを呼んでいるが、この延長線上で、ブレッドプディング、ライスプディング、スパイスケーキ、アップルパイ、キャロットケーキなど一般的に古くから家庭で作られてきたコンフォートデザートも人気が高まっている。

特にバタークリームをたっぷりのせたカップケーキは、そのノスタルジックな風味が人気を呼び、今や人気絶頂のデザートだ。ただし、家庭で作る日常のスウィーツと思われがちなカップケーキも、各店で独自に美しく演出され、正装のパーティーやウエディングでも人気のアイテムになっている。

カップケーキカフェやマグノリアのカップケーキは、まるで花畑のように愛らしい。カップケーキは、大きなケーキのように切り分ける必要もなく、食べやすく、テークアウトもしやすい。このシングルサービングの便利さも人気に拍車をかけている。

フランス系やイタリア系アメリカ人のコンフォートデザートであったクリームパフ(シュークリーム)は、かつては個々の店で限定的に売られているだけだったが、「ビヤードパパ」「シューファクトリー」といった日系チェーンによって、一般に広まりつつある。どちらも販売店を拡大しつつあり、アメリカのメディアでもよく取り上げられている。

こうした伝統的なデザートの人気が復興する半面、アメリカの人種構成の変化やアジア料理の人気などによってデザートの世界でもエスニックの影響を受け、アジアやラテンのエキゾチックな食材を使ったものがトレンドになっている。

例えば、日本料理のフュージョン料理を提供する「チューボー」では、フランス人オーナーシェフがバタースコッチソースとレッドカレーのアイスクリームを添えた「小豆パンケーキ」を、「リンゴ」では、スウェーデン人シェフが抹茶アイスクリームを添えた「抹茶ドーナッツ」を、「チビティーニ」ではオランダ人オーナーシェフが小豆ソースをかけた「抹茶ムース」を創作している。

流行には浮き沈みがあるが、いったいどんなスウィーツを消費者は求めているのだろう。長年、企業向けのケータリングショップを経営した製菓コンサルタントのジェフさんが「自分で店を開くなら」として挙げたのは、「カップケーキ、チーズケーキ、チョコレートムース、チョコレートケーキ、ストロベリーショートケーキ、キャロットケーキ、フルーツタルト、チョコレートチップクッキーを含むクッキー、各種ブラウニー」。これはすべてアメリカのベーシックな定番デザートばかりだ。

「アメリカ人は、料理は冒険できてもデザートに関しては保守的」とジェフさんは言う。

「デザートは逸楽の一つ。冒険して失敗するよりも、安心できるいつもの選択に頼りがち。ほとんどの人は、オーガニックであろうがなかろうが、脂肪分や糖分が高かろうが低かろうが、デザートだけは別枠で考えている」

そもそも、デザートは食べなくても生きていける。デザートは、必要だからでなく、食べたいから食べる特別な逸楽だ。デザートを食べてやせることはできないが、量を減らしてでも、実のあるものをしっかり楽しみたい。「花より団子」、これがアメリカのデザート市場の本音のようだ。

◆コンフォートデザートカフェ チャオ・フォア・ナウ 地元密着の経営

ニューヨークのイーストビレッジにある「チャオ・フォア・ナウ」。エイミーとケビン・ミセーリ夫妻の経営するカフェレストランは、外見から察しがつくように、店内に並ぶのは、マフィン、ブラウニー、クッキー、スコーン、コーンケーキ、アップルターンオーバー、カップケーキなど、コンフォートデザートばかり。これらコンフォートデザートは、妻のエイミーさんがレシピを担当、店の奥の3畳ほどの小さなキッチンで作っている。

「百単位、千単位で作ると、ホームメードの味でなくなる」と夫のケビンさんは言う。小さなキッチンのオーブンはフル回転だ。スコーンは、ミキサーを使わずに手でこねる。

以前、刺青ショップが入っていたという場所を、夫婦でやすりをかけ、ペンキを塗って、改装した。飾り気のない素朴そのものだが、この肩の凝らない親しみやすさのおかげで、近所の人がひっきりなしにやって来て、時には狭い店がパンクしそうなほど人でいっぱいになる。1日に400~500人の客が訪れるという。

店は古い時計や古本などが無造作な感じで飾られ、使う食器もフリーマーケットで手に入れたアンティーク物ばかり。まるでコンフォートデザートのためにあるようなレトロなカフェは、ケビンさんの言うように「居間の延長」という雰囲気だ。

できるだけ地元の人と助け合っていこうという意気込みで、材料はすべてローカルに調達する。持ちつ持たれつの関係を築き上げるためだ。テーブルにある花も、同じ通りの花屋さんが持ってきてくれ、そのお礼に食事をごちそうする。店の角には、近所の人たちの連絡掲示板もある。

「これからここにずっと根を下ろしていきたい」というケビンさん。将来、幼いころここで食べたカップケーキをなつかしむ人が出てくるのだろう。

居続けることで、これからもますます地元に溶け込み、近所の人たちと一緒に育っていく地元密着型のカフェ。今日も、近所の人たちがふらりと立ち寄ってはオーナーと気さくに話ながら、手作りのコンフォートデザートとオーガニックコーヒーを楽しんでいる。

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