厨房のウラ側チェック(28) 牛肉と熟成とその科学(その4)

1993.05.17 28号 20面

一般的に、畜殺された動物はどのくらいで死後硬直に達するのでしよう。牛では二十四時間、豚では十二時間といわれています。

今、牛がと殺されました。呼吸が停止しても筋原繊維は生きています。それはATP(アデノシン3リン酸)と呼ばれるエネルギー物質があるからです。

動物は死んでいるのですが、体内にあるグリコーゲンなどの糖が解糖系酸素でピルビン酸に分解され、ATPを供給しているからです。

しかしながら、解糖系により乳酸が蓄積されてPHが低下していくと、だいたいPH5程度になり解糖系酵素がストップして、乳酸の生産も中止します。その結果、ATPが供給されず、筋肉の硬直が始まります。

硬直は大きいエネルギーを消耗する運動ですので、ATPは減っていきます。ATPが減っていくと筋肉は伸長性を失い始めます。そして、コネクチから収縮し、次にAフィラメントの間にIフィラメントが入ってきます。この状態でアクチンとミオシンが結合して、アクトミオシンという構造体を作ります。これが硬直という筋収縮なのです。

この硬直を顕微鏡で見ますと、前号で説明した組織のZ線とAフィラメント、Iフィラメントの結合状態が竹の節みたいに長く見えるのです。

しかし、例外的に異常に早い死後硬直もあるのです。それは冷却収縮、PSE肉とDFD肉と呼ばれています。

Lockerなどが発見した冷却収縮は、と殺直後の牛の筋肉をセ氏一〇度以下に冷却すると、収縮する現象です。これは牛以外に綿羊にも認められています。

この現象は赤色筋に限って発生するもので、白色筋には見られません。

対応処置には、枝肉をセ氏一五度から二〇度に保って死後硬直させる。あるいは、と体に電気刺激を与えてATPの消失を早める方法があります。

次に、DFD肉( Dark firm dry meat )は、よく牛に起こるもので、精神的ストレスにより、グリコーゲンが急速になくなり乳酸がたくさんできないうちに解糖系がストップし、PHの高いところで止まり、腐敗しやすい肉となります。

最後に、PSE肉(Pale soft exdative meat )は、豚に発生する精神的ストレスによりATPaseが失活し、エネルギーの供給がストップすることにより、白っぽく、軟らかく、ジュクジュクしている保水性のない肉です。

食品衛生コンサルタント

藤 洋

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