本場バンコク・タイ料理の味を求めて トム・ヤム・クンに舌つづみ
タイ料理がいま、ちょっとしたブームになっており、タイシャブやトム・ヤム・クンなどタイの代表的な料理を売り物にした外食店の出店が相次いでいる。明治製菓リティル(くいもの市場・泰)、サントリー(蝦蟹市場)、西遊旅行(ムアン・タイ・なべ)が、昨年から今年にかけて都内周辺で出店、人気を得ている。しかし、日本のタイ料理は日本人向きにアレンジ“似て非なる”味に仕上げられている。そこで、タイ・バンコクに本場の味を求めた。 (冨田怜次 記者)
最初に訪ねたのはタイ風シャブシャブ料理を売り物にしている「コカ・レストラン」。シャブシャブはもともと日本が“本家”で、「バンコクでシャブシャブ料理がメニューになったのはわずか15年ほど前」と同店の女性従業員が教えてくれた。
だが、テーブルに出されたタイ風シャブシャブは、“本家”をしのぐダイナミックな料理である。まず、湯の入った鍋に活きのいい川ガニを入れたあと、約一〇種類の野菜、肉、魚貝類を入れて煮立てる。豊富な種類の川魚、野菜が採れてこそのタイ風シャブシャブである。
圧巻は川ガニの味。形は日本のワタリガニによく似ているが、味は格段の差。独特の甘い味が口に広がる。次に特記すべきはタレ。赤唐辛子をベースにしたもので、酸味を加えた“激辛”だが、不思議とシャブシャブの味を一層引き立てる役をはたしている。このタレ、観光客(外人)にはあまり出さないという。外人向けのタレは辛味を弱くしている。
シャブシャブの仕上げは、「おじや」。カニ、野菜のうまみのエキスがたっぷり残ったスープの中に、かき玉子とごはんを入れておじやを作る。長粒米で水分が少なく、日本式に炊くとうま味がないが、おじややピラフには最適で、このおじやは絶品。
宮廷の伝統料理として有名なトム・ヤム・クンに挑戦した。できあがった料理をただ食べるだけでは素気ないので、料理するところもみせてもらうため、世界でも有名なオリエンタルホテルの料理教室に参加した。トム・ヤム・クンとは焼いた伊勢エビのスープのことで、伊勢エビのかわりに、鶏肉を使ったのがケン・トム・ヤムでこのスープも代表的なもの。
《決め手は石うす》 トム・ヤム・クンの味のベースになるのが数種類の香辛料だ。赤唐辛子、コリアンダー、ハーブなど数種類を石うすで時間をかけてすりつぶし、魚汁のだしをとった湯をいれて味のベースを作る。そして、独特の酸味をライム汁によって引き出している。さまざまな香辛料が重なって深みのあるスープに仕上がるわけだが、この料理教室のトム・ヤム・クンはまさに天下一品の味。他の店のトム・ヤム・クンに比べて“星”二つか三つの差がある。そしてトム・ヤム・クンなどスープ料理を作るのに欠かせないのが、香辛料をすりつぶす石うすであることがわかった。街の屋台でも小さな石うすが必ず置いてある。日本のタイ料理が物足りないのは、この石うすを使っていないため、とひとり合点した。