低価格時代の外食・飲食店 回転寿司チェーン「平録寿司」独占市場が崩壊
「回転ずし」といえば、かつては「元禄寿司」をイメージしたが、現在は広く一般化した形になっているので、特定のチェーン店をイメージすることはない。しかし、回転ずしの機械特許が切れる五、六年前までは、開発企業の元禄寿司が業界のパイオニアとして、広くイメージが浸透していた。特許の効力が切れた現在では、街中の生業店でも自由に「回転ずし」を導入することができ、すし業界では多様なチェーン店が乱立するという状況になっている。本家の元禄寿司は特許切れ後は、ライバルチェーンの乱立という形になって、市場でのポテンシャルが急落し、精彩を欠く状況が続くことになった。このため、元禄寿司はチェーン組織の活性化、リニューアルを意図してCIを導入し、昨年11月に社名、チェーンブランドを「平禄」「平禄寿司」に変更した。「元気寿司」はかつて元禄寿司のフランチャイジーだった。平成2年にエリアフランチャイジーを経て独立、現在では本部と加盟店がライバル関係にあり、またこのポテンシャルは、元気寿司の直営方式の積極経営で逆転する様相をみせている。両社の市場戦略をレポートする。
平禄寿司の前身元禄寿司は、「回転ずし」のパイオニア、すし商品のファストフード化、明朗会計の店舗展開で、日本のすし業界および外食ビジネスに、大きなインパクトを与えた。
回転ずしが登場したのは昭和42年のことだが、45年の「大阪万博」での出店と、その四年後の49年にニューヨークに海外第一号店を出したことで、大きな話題を呼び、回転ずしのイメージを一挙に高めた。
国内では昭和51年からFC展開に乗り出し、60年ごろには直営、FC合わせて一〇〇店に迫るチェーン規模になった。
高度経済成長の真っただ中、出店すれば一、二年で投資が回収できた。立地は駅前や商店街、人の通行量が多い場所での出店戦略で、一皿一〇〇円の時代。三〇坪の店で月商三〇〇〇万円という店もあった。
ライバルチェーンもなく、機械特許を武器に回転ずし市場を独占する形で、文字どおりに太平の“元禄”、わが世のよき時代が続いた。
しかし、まもなく特許が切れた。美酒に酔っていた状況に似ていて、ポスト特許切れの市場戦略を煮つめていなかった。
人通りの多い立地さえおさえておけば、競争に負けることはないと考えていたからだ。しかし、機械を導入して「回転ずし」を展開するチェーン企業が増えてきた。
加えて、レジャー志向や外食ニーズの高まりで、郊外ロードサイド立地や地方都市での出店も活発化するようになり、市場は急速に競合・競争時代に突入することになった。
昭和60年後半には元禄の優位性は崩れ、市場から後退する様相を呈するようになった。ライバルチェーンの追い上げで、集客力が低下するようになってきたからだ。
また、前後するが、60年代に入っては企業成長も順調で、売上高も五〇億円を突破し、一〇〇億円達成も夢ではなかった。
これに過信したのか、郊外立地では回転ずしと中華バイキングの複合店舗、単独店舗の中華ファミリーレストランなどの業態開発にも取り組んだ。
回転ずしの「ノウハウ」はあっても、レストランタイプの店のオペレーションノウハウはない。単に相乗効果を上げ、客の多様な外食ニーズに対応するといった程度の発想だった。
「店を出せば売れた時代ですし、FC希望者も多かった。難しい市場戦略、経営戦略は考えていなかったのは事実です」(平禄本部)
しかし、平成に入って出店、売上げともにマイナス成長をみせるようになってきた。会社経営陣に危機意識が出てきたのはいうまでもない。前記の店はスクラップしていまはない。企業エネルギーを分散させて、マイナスの結果を出したということだ。
社員の意識改革、チェーン組織の活性化、市場の見直しなどを意図した「CI戦略」(コーポレート・アイデンティティ)は、会社設立三〇周年という節目も踏まえて、こうした考えから出発した。
CI準備には二、三年を要した。このコンセプトは「明るく、健康的で、女性客一人でも気軽に入れる店づくり」。
具体的には従業員のユニフォームも、若いアルバイトの娘が進んで着用できるよう、デザイナーブランドでキュートなものにした。
客への応対もハキハキ、店内の照明を倍近くの四〇〇ルクスにアップした。昨年11月、“ドル箱店舗”だった東京・表参道の直営店をリニューアルオープンしたことで実現した。
店名は「元禄寿司」から「平禄寿司」に変わった。店の規模は変わらないが、客単価も上がり、狙いどおりに女性客やファミリー客も増えた。売上げも五%アップした。いずれ月商二〇〇〇万円を突破する見通しだ。
現在の出店数は直営四九店、FC四五店の計九四店(今年5月現在)だが、これを八年かけてリニューアルし、新生平禄寿司チェーンの基盤を作り上げる方針だ。
出店は郊外六割、市街地四割で、以前とは逆転させ郊外立地に力点をおく。また、店舗オペレーションもより手作り感覚とホスピタリティーを押し出していく。新生平禄チェーンの市場戦略が期待される。
◇会社概要
・企業名/平禄(株)
・チェーンブランド/「平禄寿司」
・会社設立/昭和42年8月(創業昭和34年11月)
・本社所在地/宮城県仙台市青葉区本町二-一-二九(電話022・214・5566)
・東京支社/東京都豊島区東池袋二-三二-二二(電話03・3988・8877)
・資本金/三億一二〇〇万円
・取締役会長/江川金鍾
・代表取締役社長/江川進興
・従業員数/正社員三一八人、パート三二八人
・事業内容/回転ずしチェーン展開
・決算期/3月
・出店数/平成8年度=直営四九店、FC四五店、計九四店
・売上高/同一五六億円
(注)平成8年11月、CI導入により「元禄寿司」から現社名、チェーンブランドに変 更