10年後を見据えた飲食店の課題 とんかつ=永遠の定番料理

1997.12.15 142号 10面

とんかつ専門店が今注目を集めている。全国にある弊社会員企業でも、昨年一年間に開店した二六六店のうち同業態は二割弱を占める。そして、その九割が月商一二〇〇万円を下らない実績を収めている。中には六〇坪で二〇〇〇万円以上を売上げる店舗もある。

なぜ今とんかつ店なのか。生活者のニーズ、志向が変化したといわれているが、どんな時代でも「気軽に日常的な食事を楽しみたい」という気持ちは変わらずにある。過去十数年間にわたってそれを供給してきたのが洋風ファミリーレストランであった。

しかし、かつては日常的に食べたいと思っていたその料理を、今は、日常的とも食べたいとも思わなくなってしまった。それが、洋風FR低迷の最大の原因である。では、今の生活者はどんなものを欲しているのだろうか。

(1)専門性の高い料理(2)気軽に選べ、リーズナブルで満腹を約束してくれる(3)年齢性別など顧客層を限定しない料理

専門店の時代といわれている。よりおいしいもの、より本格的な料理を食べたい、という基本的な欲求を満たしてくれる。だれでも知っているなじみの高い料理。そんなに高くなく、ごちそう感も高く、おなかいっぱいになれる。年齢、性別、利用時間帯、利用形態を限定せず、いつでもだれとでも利用できる。

要するに気軽に日常的な食事を楽しみたいという普遍的なニーズに合致し、かつおいしい本物の料理、がとんかつなのである。

さらに、とんかつは、ご飯に非常によく合う、本当にご飯がすすむ数少ないメーン料理の一つであろう。とんかつという商品は町の定食屋さんやファミリーレストランでもどこでも見かける。また家庭でも定番の料理である。それだけなじみの深い商品であることは間違いない。しかし、本当においしいとんかつにはなかなか出合えない。それを、価値十分に提供しているのが、今のとんかつ専門店が繁盛している要因の一つである。

もう一つ見逃してはならない繁盛の要因が、郊外に出店したことである。ファミリーレストランに飽きた人たちをそのまま取り込むことができた。とんかつ店はどの町にも必ずある。老舗の有名店も大抵はあるものだ。これらの店舗は、市街地立地であり、比較的小規模な店舗が中心である。立地的にも店舗の構造的にも、一般のファミリー客には利用しにくい状況にある。

郊外のファミリーレストランの使いやすさに慣れ、しかし、魅力を感じなくなった人たちにとって、行きやすく、比較的リーズナブルで、おいしい専門的な料理が食べられるこの業態は、当然の成り行きとして受け入れられているのである。

顧客側の視点で述べてきたが、事業者側からの利点もかなり大きいことが、この出店好調の背景にある。

(1)効率的なオペレーションが可能(2)集中的にレベルアップがしやすい(3)投資効率が高い

単一商品であり、調理工程が簡略であるために、効率的なオペレーションが組みやすく、商品への集中的なレベルアップに取り組みやすい。弊社会員店は自動フライヤーを導入し、商品の均質化、大量調理、人件費の削減に成功している。

一点に集中して商品の品質にこだわることができるため、時代のニーズに合った、おいしい本物の商品が提供できる。客単価が比較的高く、売上高の確保がしやすい上に、効率的な運営が可能なため、投資効率が高く、出店しやすい。

このような事業性の高さが、この出店の波の背景にある。

ここで、具体的な繁盛店の姿をまとめてみよう。

(1)店舗規模

五〇~七〇坪、六〇~八五席の中規模店が中心である。これは、専門店としての雰囲気と適度な居心地感を表現するのに適していると同時に、効率的かつ適度なサービス水準を維持しやすい規模であることがその根拠である。

また、駐車場は四〇台以上確保することも安定した売上げの背景となる。

(2)客単価と商品価格帯、品ぞろえ

地域的に多少のバラツキはあるが、客単価は一三五〇円前後である。いわゆるファミリーレストランよりは二〇〇円ほど高い。

価格帯は一二〇〇円台を中心に、一〇〇〇円台、一三〇〇~一四〇〇円台へと幅を持たせる。ロースやヒレのメーン商品にはポーションでバリエーションを持たせ、一〇〇〇円から一五〇〇円程度にする。

サブ商品として一〇〇〇円以下の商品も加えておく。さらに、高単価商品を上〇〇かつ、特上〇〇かつなどや、オリジナル商品、特大ポーションの商品で持つことも一つの鍵である。

(3)立地と店舗構造

郊外型フリースタンディングタイプが中心である。駐車場を持った一戸建てスタイルである。行きやすい場所で、駐車場がキチンと確保できれば、いわゆる二等立地でもあまりこだわらない。それは、わざわざ行く目的客を顧客の中心とするからである。

店舗は専門店の顔を表現できる外観と内装がポイントである。どちらかというと和風のイメージが中心である。客席は、カウンター席、二~六人掛けのテーブル席、小上がり席を配置し、さまざまな利用動機に対応できる席の配置をとっている。

(4)投資と売上高

投資金額は、六〇坪程度の店舗で約一億円程度である。売上げは一億五〇〇〇万円~二億円程度で、投資回転は一・五~二回転となる。

(5)経営体質

原価率は三六~三八%、人件費率は二二~二三%、諸経費率は一〇~一二%、計六八~七三%である。

原価率は、比較的高い。食材にこだわり、いい商品を出すためにこの程度を掛ける必要がある。その分人件費は比較的低く抑えられる。

今繁盛しているとんかつ専門店は、このような現状である。では、とんかつ店の将来はどうなるのだろうか。

今までの経緯からみて、今後も生活者にとって「とんかつ」という料理への支持がなくなるとは考えにくい。本物を気軽に日常的に食べたいというニーズもなくならないだろう。しかし、これほどの勢いで出店が続き、競合が激化してくれば、当然淘汰が始まる。供給過剰になれば、まずくて高い店は捨てられていくだろう。

売上げが落ちてくれば、単品でいることが不安になり商品の幅を広げることを考えるのが普通であろう。あるいは、安く(価格を下げて)売ることを考える。しかし、これは、一つの方向ではあるかも知れないが、かつてのフアミリーレストランが歩んできた道であり、結果として失敗した道である。

とんかつは好きだが、なかなかおいしいものに出合えない。これは、多分永遠に続く命題だろう。そのことから考えれば、より本物の専門店を目指すことが最適な方向といえよう。本当においしい商品を提供し続けること。本当にいいサービスを提供し続けること。「老舗戦略」とでも言えようか「とんかつならあの店」といわれる店になる以外に生き残る道はないのではないかと考える。

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