忘れられぬ味(14)三州製菓・斉之平伸一社長「モスクワと成都の味」
一昨年、食糧新聞さんの企画ツアーでロシアに行った。7月だったが、日陰にいると、コートが欲しくなるような肌寒い気候だった。高名な食品評論家である太木光一先生の解説付きだったので、なじみの少なかったロシア料理が、少しではあるが身近になったような気がしている。弊社は米菓を製造販売しており、ロシア風のせんべいとはどのようになるのか、というテーマを持ちながらの参加だった。
まず、ロシアといえば高級食材として、キャビアと言うことになるが、旅行中、一流レストランでもお目に掛かることはなかった。メニューにキャビアと書いてあっても、でてくるものはイクラだった。なんでも、キャビアよりも生産金額の大きな石油の生産を優先したために、環境汚染でチョウザメが激減したためらしい。ロシア産の本物のキャビアに初めてお目にかかったのは、帰国する日、モスクワ空港の免税店の店内であった。
しかし、旅行の最後にモスクワで、修道院付属のレストラン「ダニーロフスキー」で食した味は「忘れられぬ味」となった。レストランは寺院の裏側にあり、よく手入れされた美しい庭園を通り、建物に入ると、清楚なインテリアが印象的な室内だった。フランス料理のフルコースを食べるときは、前菜・スープ・主皿料理・デザート・飲み物の順番で運ばれてくるが、どうやらこの順番はロシア料理が原型とのこと。修道院付属のレストランで食したロシア料理のフルコースはまさにフランス料理の原型のような組立であり、美味に堪能することができた。
三年前訪れた中国・四川省の成都でも、「忘れられぬ味」に出会った。成都は、四川料理の本場で麻婆豆腐発祥の地であるが、有名な漢方薬の市場があり、古来、漢方薬剤を使った滋養の高い薬膳料理も盛んと聞いていた。弊社では、味と健康にこだわった「薬膳仙餅」をつくっており、以前から、成都の薬膳料理を食したいと思っていた。
本場の薬膳料理は、思ったほど漢方の匂いがきつくなく、日本人の味覚を満足させる味だった。何より、普段食することにできない微妙な味が「忘れられぬ味」となった。
(三州製菓(株)社長)
日本食糧新聞の第8654号(2000年2月25日付)の紙面
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