クチーナ通信 トリノのごちそうはイワシフライ

1998.02.10 29号 15面

「魚が食べたい……」

もしこんな呟きをイタリアにいるはずの私が発したとしたら、皆さんはどう思われるだろうか。

前回にも触れたように、イタリアと言えば「地中海式食生活」のお手本のような所。とれとれの魚なんていくらでも手に入るのではとお思いの方もいるかもしれない。しかし日本と同様、南北に長いこの国は、北と南、あるいは海辺と内陸で食事情もガラリと変わる。

私の住んでいるトリノは数時間行けばもうフランスという北イタリアのへき地。フランスの影響が濃く周辺地域は世界的に有名な白トリュフやワイン、ジビエなど豊かな山の恵みに溢れた土地だが、こと魚事情となるとどうだろうか?

えてしてこういった内陸では魚の“新鮮”の基準が大甘なので注意して選ばないととろけたようなサバなどをつかまされてしまう。日本でなら臭ったらもうそれは新鮮の基準からは逸脱した魚だが、彼らはかなりの段階まで「海の香り」と許してしまうのだ。魚を食する習償の浅い所で目利きが育たないのはまあ仕方がないのかもしれない。

というのも一番近い海のジェノヴァまではいまでこそ特急で二時間で着くようになったが、かつてはそんな遠く離れた内陸へ鮮魚を搬送するのは無理があった。保存の効くツナの油漬けやアンチョビ、干しタラくらいがかつてこの辺の人々が入手し得る“魚”だったのだ。(ツナの油漬けはいまでも割に高級な食材だし、これらを使った立派な伝統料理-子牛肉のツナソースかけやアンチョビソースで生野菜を食すバーニャカウダなど-もある)

いまでは魚市場にはそれなりに新鮮な魚も揃い、白身の魚や海老、貝などはそこそこのものが手に入るが、トリノでどうしてもイカンのはやはり傷みの早いイワシ・サバ・アジの類。最初私が呟いたのは、ひとえにこの青魚への郷愁なのである。

イタリアでもヒラメやタイなどの自身魚より高級度は落ちる青魚だが、改めて調べてみると青魚の脂肪分にはオリーブ油と同じ不飽和脂肪酸が含まれているほか、コレステロールを下げたり大腸ガンを抑える働きもある。またカルシウムなど無機質も豊富で食べなければソンと言うくらいの健康食品である。

地中海周辺の住民に心臓病疾患率が低いのは、オリーブ油を主たる油脂としているほか、こうした青魚を豊富に食べているからだともいわれている。その地中海の真ん中であるシチリアには、ピチピチのサバの炭火焼きやイワシのスパゲティ、イワシを開いて詰めものを挟んだフライなど、豪華ではないが、魚の旨い土地にいることを感謝したくなるような青魚を使ったおいしい家庭料理がたくさんある。

私がいまいる店の主人はシチリア島の港町シラクーサ近くの出身であるため、たまに魚市場から都合して割に新鮮なイワシなどを仕入れてくる。これはお客用ではなく、大概は賄い(従業員の食事)で私たちが頂くことになる。青魚の同好の士たちとは、不思議に通じるところがあったりするのだった。

(イタリア・トリノで料理修業中 合田達子)

SARDINE AL BECCAFICO

シチリア風イワシフライ

【材料】-4人分

イワシ(小さめのもの)16尾、パン粉、牛乳、パセリ、ニンニク、卵、おろしチーズ、塩、コショウ各適宜。フライ用の小麦粉、揚げ油適宜。

【作り方】

(1)イワシは頭と内臓をとって背開きにし、開いた側を上に向け、2尾を一対としてバットなどに並べる。軽く塩・コショウ。

(2)ボウルにパン粉を入れ、牛乳を少し加えて湿らせる。つなぎの卵を加えてよく混ざったら、おろしチーズ・刻みパセリ・刻みニンニク・塩・コショウで調味する。耳たぶくらいの柔らかさに調節し、絞り出し袋に詰める。

(3)(1)の片側の1尾のイワシに(2)の詰めものを絞り、もう1尾をかぶせてフタをする。

(4)小麦粉をまぶし、フライパンにイワシがかぶる程度の油を熱してこんがりと揚げる。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら