百歳への招待「長寿の源」食材を追う:「粟(あわ)」

1997.05.10 20号 14面

粟(あわ)は米・麦・豆・黍(きび)などとともに、五穀の一つに数えられている。粟は東インド原産のイネ科の一年草で、狗尾草(えのころぐさ)が進化したものとみられ、古く中国から伝来した農産物で、稲とともに重要な位置を占めていた。飛鳥・奈良時代には広く栽培されていた。

粟とは淡(あわ)から派生したもので、オオアワとコアワがある。日本では前者が一般的に栽培されている。

粟は生産性が高く、コメと比べて非常に安い穀物で、謡曲『鉢の木』にみるように、貧しい鎌倉武士の主食ともなっていた。それでも十分に気力の養える食料であった。

昭和前期まで、粟はコメや麦とならんで重要な地位を占めていた。特に生産農家では、安い粟を食べ、高いコメを売る状況が長く続いた。最近はコメの生産のみに集中し、粟は作られていない。この結果、現在ではコメよりも高い粟が流通している。

粟は栄養面で優れた食品として、中国では多く食べられている。小米と呼び、粥(かゆ)にして食べるのが一般的。小米粥は味わいもよく、便通を良くし、授乳中の母親の増乳食ともされている。

粟の食事は素朴食として薬効が多くみられ、コメにまさる健康食ともみられている。粟に緑豆をまぜたものは、のぼせや高血圧症によく、小豆をまぜたものは、冷え症によいとされる。粟に甘いナツメを入れた菓子の小米〓、は健康を保つといわれ愛好者が多い。

益気・養血(滋養が多く血を養う)の効が高いとして酒を造ったり、アメに加工されたり、日本以上に評価が高い。

成分は白米と比べてエネルギーは二・四倍、タンパク質は四・一倍、脂質三・八倍、食物繊維は五倍、カルシウムは五・五倍、鉄は二○倍、ビタミンB1は六・六倍、B2は七倍と、あらゆる点で粟の方が優っている。特に繊維・カルシウム・鉄などが多く、注目されるべき食品といえよう。日本ではコメと比べて食味が悪いことから、主食として食べられていない。主として加工用で、もちや和菓子などに使われている。

粟もちは江戸中期ごろから食べられ、軽く腹にたまらないことで人気をよび、最近では素朴な味わいの中に栄養価が高いと、白もちとならんで販売されている。

薬食の国韓国では、五穀の一つとして高く評価される。五穀飯(米・麦・大豆・小豆・粟をまぜて炊く)は、旧正月15日の行事食として食べられ、災いをなくすという慣わしがみられる。

粟は農政の重米政策のせいで九州の一部でしか作られているにすぎないが、輸入品として着実に増加している。

優れた健康食品・自然食品としてもっと見直す必要のあるものといえよう。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら