中元ギフト特集
中元ギフト特集:首都圏百貨店動向=脱日常的な商品体験を提供
首都圏百貨店のギフト商品開発は、おいしさや品質の高さはもちろん、見た目も背景ストーリーも重視する傾向にある。例年のあいさつにとどまらず、贈り先への心配りが伝わるような中元ギフトを追求する。贈る側の思いを表現できるギフトが、贈答の新たな動機を喚起する。自家消費の提案も新しい利用シーン開拓の試みだ。購入者は自分へのギフトを通じてハレの日を演出できる。
改元の祝賀ムードは中元ギフトへの関心を高めると期待されているが、市場活性化の鍵は、「お中元」の習慣が現代的な意味を獲得できるかどうかにある。各社は令和最初の中元をアピールする中で、中元の起源や歴史に言及しつつ、贈る先への心配りや思いの意義に立ち返る。この「思い」を伝えるために欠かせないのが、日常とは異なるサプライズの要素になる。自家需要も含め、ギフトの価値は商品を通じて脱日常を感じられる驚きにある。
ギフト商品の開発テーマとして、今季も「SNS映え」は重視されている。箱を開けた瞬間に、その見栄えに驚きを覚えるような商品だからこそ、SNSでシェアしたくなる。味わいはシェアできないが、見た目の良さは拡散できるという違いも重要だ。
もともとギフト商品の多くは見栄えも大切にするが、見栄えのよさを起点に開発するギフトも増えている。大丸松坂屋の「錦鯉の姿で『令和』寿司」は、錦鯉に見立てた寿司が令和の文字を成す。購入者も受け取る側も、食べる以上に眺めることに価値を見いだすかもしれない。高島屋の「夢のホームランバット」は、長さ60cmのバット形状のバウムクーヘンだ。箱の長さを見ただけでワクワク感が高まりそうだ。東武百貨店「美見礼讃」のように見た目重視で企画を組むケースもある。
開発ストーリーを知ることでも商品の印象は変わる。「三越の三ツ星」として展開するギフトは、素材・製法だけでなく作り手にも注目する。石川県産の希少なナシ「加賀しずく」を使用した「葛あんみつプレミアム」や、南米ペルーの農村で農園を営む日本人「高橋克彦 カフェ・オルキデア アイスコーヒー」などを提案する。
贈り先を喜ばせるための心配りは、おいしさや楽しさだけではない。三越伊勢丹の「日々是食楽」は、ごちそうメニューでありながら塩分控えめなどの健康配慮型のギフトを集めている。高島屋の「スローカロリー倶楽部」は、糖質をゆっくり吸収できるデザートを商品化した。
少人数世帯が使いやすい「適量」をコンセプトとする京王百貨店の「美味適量」、手軽にごちそうメニューを用意できる簡便性に着目した三越伊勢丹の「ワールドデリシャスジャーニー」、同じく三越伊勢丹で宗教上の禁忌に配慮した「ハラール・フードセレクション」なども、贈り先について深く考えた上で選ばれる商品だといえる。
●ギフトの用途拡大
ギフト市場の拡大領域である自家消費を喚起するのも、脱日常の魅力にほかならない。高島屋は、自家消費の中元ギフトを「おいしいものが一堂に集まるシーズンイベント」ととらえ、七夕に向けて盛り上がりを作ろうとする。関連商品として星をモチーフにしたグルメギフトを提案する。そごう・西武は、訳ありで価格を抑えた商品を自家用に提案する。不揃いのドンコや、瑕疵(かし)のある焼き海苔を対象品として揃えた。
自家消費の利用シーンは、伝統的な中元ギフトの枠を越えたものだ。同様に、パーソナルギフトとして利用されることでも中元期の需要は広がる。
東京・京都・奈良・九州の国立博物館とのコラボギフトは、ビール大手などが限定デザイン商品を展開する。ギフト商品として新鮮な印象を与えるだけでなく、帰省時の手土産にも利用されているという。地域性を打ち出すギフトにも同じような利用シーンが見られる。そごう横浜店の地元ギフトや、小田急百貨店の「いま、注目のエリアセレクション」がフォーカスする東京ギフトなどは、首都圏のグルメを楽しむパーソナルギフトとして広い用途を見込める。
●買い物体験に驚きを
店頭のギフトセンターで選ぶメリットは、陳列された見本を確認しながら選べることにある。スタッフとのコミュニケーションで疑問や不安を解消することもできる。店舗ならではの体験として、日本橋三越本店はギフトを使ったアレンジメニューを紹介する実演コーナーを設ける。西武池袋本店も試食コーナーを設置し、商品を確かめながら検討できるようにした。
ギフトのオンラインショッピングは、店頭以上の品揃えで、送料も優遇する場合が多い。出掛ける手間が省けるというだけでなく、時間をかけて商品を選びたい利用者ほど適している面もある。
店舗でもネットでも、売場が果たすべき役割は脱日常的な商品との出合いと、その商品への理解を深める機会を提供することだ。購入者にとっては、そこで得る商品への驚きこそが買い物体験の価値になる。(宮川耕平)