「適塩」のすすめ 塩分濃度高い外食・中食・加工調理食品

1995.09.04 84号 16面

塩分には体液の濃度を一定に保つという重要な役割があるが、過剰摂取を続けると腎臓に負担がかかり、心臓病、動脈硬化、高血圧、脳卒中の原因となってしまう。そこで言われるのが「適塩のすすめ」である。日本人の栄養摂取量の目安を定める「日本人の栄養所要量」では「食塩摂取量は一日一〇g以下が望ましい」とされている。しかし、国が食生活の改善を進めて減り始めた食塩摂取量も昭和62年を底にまた増え始めている。食生活の多様化が促進され、外食、中食が増え、家庭においても加工食品の利用度が急増したことと切り離しては考えられないようである。低価格と品質の向上が交錯する中、「健康、ヘルシー」を掲げる外食企業が増えてきたがその一端を担う「適塩」も差別化の大きなキーワードとなっている。

食事つきシルバーマンションに引っ越して間もないA氏は「イヤー、外食はおいしいね。こんなにおいしかったとは思わなかったよ」と開口一番語った。シルバーマンションには会員制のレストランがあり、家庭の台所よろしく朝、昼、晩の食事をそこでとることができるという。“シルバー”というくらいであるから、もちろん食事もシルバー向けに配慮されており、低カロリー、減塩、低コレステロール等々薄味、さっぱり仕上げとなっている。

職業柄外食の多かったA氏は最初物足りなさを感じたが日常化されるに伴い、違和感を感じなくなった。ところが、時折外で食事をすると冒頭の言葉となる。おいしいイコール味が濃いと言うことである。よって、食欲は進む。つい食べ過ぎてしまうと笑う。

外食が食生活の三分の一を占めるという「外食産業」に携わる者としては笑うに笑えない現実だ。グラフは食塩摂取の年次推移及び地域ブロック別食塩摂取量である。この現象を大阪薫英女子短期大学教授河野友美氏は「外食、中食、調理食品の利用が多くなると、いずれも食中毒などを防ぐ食品衛生の立場から、塩分濃度を高めにする傾向があり、そのため、外食などの利用頻度が高いほど、塩味の強いのに慣らされる。そして、やがては自宅の料理でも塩味の薄いのが物足りなくなり、だんだん濃い味の料理を作る傾向にある」と分析している。

日本食は「ヘルシーに栄養分をバランス良く摂取できる優良料理」として世界中から注目されていることは周知の通りである。しかし、やはり、落とし穴があった。味付けしていないご飯を食べることを中心に考えられている食事のおかずは塩味が濃くなり易いということである。「たんぱく質摂取量が少ないと食塩に対する嗜好が少なく、たんぱく質摂取量が増加すると食塩に対する嗜好が下がる」(河野氏)ということらしい。

そこで、日本の料理は「料理の旨味成分がある程度強いと食塩を減らしても満足できる」ため、だし文化が形成された。うま味をしっかりつけただし汁で作った吸物は塩味はあるかないかでよいが、だしを贅沢に使えない場合は塩味を濃くしないと間の抜けた味になるという経験は誰にもあるかと思う。

さて、話を食塩摂取の本題に戻す。国民の食塩摂取が増えているのは確かだが、グラフを良く見ると、地域で差があり、減っている地域もある。食の平準化が進行している現れと見られる。地域格差を河野氏は次のように分析する。

「注目したいのは、もともと食塩摂取量が全国平均の数値より低い東海、近畿1に、じりじりと食塩摂取量の増加が見られること。特に近畿1の中でも京都、大阪についての食文化を見ると、ある特徴がある。それは食を楽しむ思想です。それも、材料の新鮮な物を生かして、その持ち味を消さないように調理し、料理の味をじっくり楽しむという考え方。そのためにはだしを贅沢に使い、塩をぎりぎりまで抑える工夫をする。これがこの地域の料理の塩味を極力抑えてきた方法です。ところが、外食、中食、加工食品などによる食の平準化で良い食事形態が崩れてきている。

一方、北海道や九州では少しずつ食塩摂取量が減っている。魚の新鮮なものが潤沢になり、魚の持つ旨味とたんぱく質の摂取増加と相まって食塩摂取量が下がったと見ることができる」

いずれにしても日本型の食生活の良さが何らかの要因で崩されていることは確かで、ここで外食も効率プラスアルファーを考えて欲しい。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら