タイで都市封鎖再び 4000店の日本食店が危機に
タイ全土で4000店を超す日本食レストランが危機に直面している。正月気分も覚めやらぬ新年早々、首都バンコクでの夜間の店内飲食の禁止が通告されたのだ。期限は「1月4日から次回発表のあるまでの当分の間」。12月下旬から始まった新型コロナウイルスの感染第2波により、1日当たりの新規感染者が連日3桁に上っているためだ。バンコク西郊の水産市場から始まった感染は全77県のうちの約4分の3にまで急拡大。その影響はタイで最もポピュラーとなった日本食の根幹を脅かすまでとなっている。
店内飲食禁止は5日から。飲食店にとってコアな時間帯である午後9時から翌午前6時まで、店内で客にアルコールを含む一切の食事を提供してはならない。持ち帰りと宅配(デリバリー)は除外されるものの、店内での食事が禁じられるのは非常事態宣言が発令された20年3月26日以降、5月3日に再開して以来となる。すでに年末にバーやパブなどの飲酒施設が閉鎖を命じられているが、アルコールの店内消費は終日禁止され、こちらは6月15日に約3ヵ月ぶりに再開されて以来だ。
バンコク都は当初、午後7時以降の店内飲食禁止を指示した。だが、飲食業団体の強い反対や国民世論を考慮した政府が、午後9時までと直後に変更した。行政当局内にもさまざまな葛藤と意見があったものと推察されている。
禁止の通告は全ての飲食店を対象としており、特に日本食が対象とされたわけではない。だが、もともと食材費が極端に安価で、屋台など屋外での出店が容易なタイ料理に比べ、衛生面で一定の縛りがあって持ち帰りにも不向きな日本食店が受ける損失は計り知れない。店の経営者が日本人ならば、タイ政府からの支援を受けるのも難しい。「第1波は多くの日本食店がどうにか乗り切ったが、今回は生死を分ける事態になりそうだ」と業界関係者も指摘する。
決定を受け、総合和食を提供するある店舗のオーナーは従業員の雇用をどうするかで頭を痛めている。前回第1波の営業禁止時は、政府からの個人向け助成も合わせ給与のほぼ全額を休業中にもかかわらず支払うことができた。だが、貯蓄もすでに使い果たした。流動資金が極端に枯渇する中で以前のような保証はできない。「給与が払えなければ店を辞める従業員も出てくるだろう。ベテランの職人が去るのは痛手だが、それを止めることもできない」と困惑の表情だ。
規制がいつまで続くのか不明な点も心配を増幅させている。新型コロナの新規感染者は、20年12月20日に576人を記録して以降、連日ほぼ3桁で推移しており、直近でも1月4日が745人、5日が527人、6日が365人。当初の感染源以外に集団感染(クラスター)も複数地点で発生している。感染ルートを追い切れない感染者も拡大しており、収束のめどと規制緩和の時期は全く見えていない。
今回の第2波は、バンコク西郊サムットサーコーン県のマハーチャイ漁港にある水産市場が発生源とされている。何らかの原因で同水産市場にウイルスが持ち込まれ、そこで働くミャンマー人労働者のコミュニティーに感染。瞬く間に広がったとみられる。出稼ぎ労働者の彼らは生活費を節約するために、多人数で狭い部屋で密になって寝食をともにしている。クラスターの発生はいわば必然だった。
タイ政府は、ウイルスの持ち込みがミャンマーからの密入国者による可能性もあるとして国境の監視を厳とするよう指示を出した。国境警備の人員を増やし国外からのウイルス侵入の防止に全力を挙げる。
一方、国内でも感染の抑制に向けて、あらゆる対策を講じていく考えだ。そこには、タイで最もポピュラーな外国食に成長した日本食だからゆえに特別扱いする余裕はもはやない。タイの日本食はコロナ禍最大の重大な局面に立たされている。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)