カルビー・伊藤秀二社長 勇気持ち値上げを 価格競争から価値共創へ
カルビーの伊藤秀二社長CEOは2022年に加速した食品の値上げについて、「今年で終わりではなく、23年以降も継続する」との見通しを示した。20年以上に及ぶデフレの影響で「安さ」を基準にした価格競争という循環から脱却しなければ、日本の食ビジネスの将来は厳しいとの考えを本紙取材で明らかにした。日本はデフレ下の20年で現金給与が8.5%、全世帯消費支出が12.3%減少したという事実を示し、「今後、経済成長に伴う実質賃金の上昇がなければ食品産業は縮小せざるを得なくなる」とした。生産者・原材料供給者、食品メーカー、卸、小売という食ビジネスを構成する関係者がそれぞれ「勇気を持って適正な値上げを」行い、社員に還元することで、需要を刺激し適正なインフレに導くことが重要と指摘した上で、価格競争から価値共創に転換する取組みの先頭にカルビーが立つとの意気込みを示した。(青柳英明)
伊藤社長は「安さ」という基準を否定していない。同社もかつて「デフレ対応」で収益を大きく伸長させた。「その時点では、間違った判断ではなかった」(伊藤社長)が原材料、包装資材、エネルギー価格など企業活動に必要なあらゆるコストが増加する現在においては、「安さ」を基準としたビジネスモデルの先には衰退しかないと指摘。コストを価格に転嫁できなければ農家は農産物を栽培できなくなり、メーカーは物作りができず、商品の配送は滞り、店頭に商品は並ばなくなる。同社では、すでに国産バレイショについて肥料やエネルギー価格上昇を受け、契約生産者からの買い取り価格を上げている。これによって国産バレイショの持続可能性の担保も図っている。
また伊藤社長は、値上げはメーカーだけが行うものではないとの考えを示した上で、電気代をはじめ、さまざまなコストが上昇する中、空調の効いた店内で消費者が満足する品揃えを行い、高いサービスを提供する小売業もこうしたサービスの質を維持し、さらに高めるために「値上げ」という選択肢を放棄するべきではないと指摘。食品のサプライチェーンが正しく循環するためにも、小売業、卸売業もコスト増加分を価格に適正に転嫁する必要があるとする。また、値上げする際には経済合理性が重要であり、値上げでJANコードの変更や包材を変更することは避けるべきであるとの考えを示す。
さらに、値上げは企業の収益性を保つためだけではなく、設定された価格のままでは日本の食のサプライチェーンの維持は困難になっている。「流通の各段階で価値を付加することで、最終消費者の皆さまに、この価値を認めていただき一部の負担をお願いできればと考えている。メーカーの値上げの適正さを、厳しい目で見ていただくと同時に、値上げに至る理由を理解していただければ」と語る。