長寿の里探訪 山梨・棡原 オクテの子(晩熟)は長生きできる?

1996.09.10 12号 15面

長期にわたり棡原(ゆずりはら)のフィールド調査を行ってきた甲府在住の医師、古守豊甫氏は、人間のライフサイクルには「早熟↓早老↓短命」ならびに「晩熟↓不老↓長寿」という構図傾向があると強調する。

この説を立証する資料として氏が引き合いに出しているのは、ドイツのアブデルハルデン・ブンゲによる「子の成長速度と母乳の成分」の相関関係だ。それによるとヒト・馬・牛・羊・豚などの動物の出生時の体重が倍になる期間はそれぞれヒトが一八〇日、馬が六〇日、牛が四七日、羊が一五日、豚が一四日。このような違いがなぜあらわれるかというと、それぞれの動物の成長速度はその母乳に含まれるたんぱく質とミネラルの量に比例するから。ヒトは薄く、動物は濃厚なのだ。つまりヒトはもともと発育が遅く、他の動物に対してオクテの動物で、だからこそ他の動物より長生きできるのだという。それなのに「いまの日本の青少年は、あまりにも成長が速く、オクテというヒトの特権を放棄している。そして早熟・早老・短命の道を急いでいる」(古守氏)。

どうして青少年の早熟が進んだかを古守氏は、ひとえにたんぱく質の過剰摂取ゆえと指摘する。「過剰なたんぱく質は人体にとって重荷となり、青少年にとって身長の伸び過ぎと早熟をもたらす。戦前の棡原は私の見たところ、生涯を通じてたんぱく質はプロキロ〇・五gであり、五〇歳前後は理想的であるが、発育期と成熟期には大きく不足している。しかしこれが、村人の小柄ながらがっちりした強靱な体格、体質をつくり上げ、同時に早熟↓早老↓短命とはおよそ逆のパターンたる晩熟↓不老↓長寿の因をなしとげていることを見逃してはならない」(「長寿村・短命化の教訓」から)。

古守氏はこれらのデータをもとに成人病予防を目指してこれからの日本人が修正していくべき食生活の方向性を示している。古守氏が強調しているのは「棡原の伝統的食生活をもって、そのままそれに従えということではない」ということ。

ベースとなるのは穀菜食、そして塩分を減らすことだ。野菜・山菜・豆類・芋類・穀類は欠かさず。この上に、発育期・成熟期・老化期の各期に応じたたんぱく質・脂肪を上乗せしていく。たんぱく質の量を加齢とともに少なくしていく理由は、だんだんとたんぱく同化ホルモンが少なくなるためだ。

長い時間をかけて蓄積された調査結果、これからの我々の現代食生活にぜひ活かしていきたい。

(取材協力=古守病院 古守豊甫氏 0552・33・5230)

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