おはしで治す現代病:日和見感染症 九州大学・野本亀久雄教授に聞く

1997.05.10 20号 19面

現在、高齢者の死亡原因の第一位は肺炎である。若いころならば、たかだか咳(せき)の二つか三つで済まされる類のものだが、年とともに免疫細胞の増殖が不活発になり、健康な人に対しては病原菌とならない弱い微生物が増殖し、ときには死にもつながるさまざまな病気・日和見感染症を起こす。この日和見感染症こそ、高齢社会の到来で非常に懸念すべき病気だ。最近問題となっているO157をはじめ、日常さまざまな細菌やウイルスを体内に取り込んでいる私たち。病気になって初めて、健康のありがたさを知ることも大事だが、ふだん何気なく暮らしていられるのはもっと大切。そうした何気ない生活を私たちにもたらしてくれている、生体防御機能を維持するための食生活のポイントについて、九州大学生体防御医学研究所の野本亀久雄教授に聞いた。

Q 日和見感染症とは、いったいどんな病気なんでしょうか?

A 加齢や病気によって防御システムの働きが低下すると、普通は何でもないような毒性の弱い細菌やウイルスに感染し、時には死に至る病気を起こす。これが日和見感染です。

エイズ患者に発症する、カリニ肺炎もカポジ肉腫も日和見感染症です。免疫力を高め、この日和見感染症を防止することこそが、加齢世代や超高齢世代にとって健康を維持する基盤になるのです。

Q 免疫と食生活は関係がありますか?

A 食生活のレベルが低く、重要な栄養素が不足する地域では、感染症があっという間に広がってしまう。これは栄養状態が人の免疫と深くかかわっている証拠で、そうした環境では、不足した栄養を補う必要があります。

しかし“飽食”日本では、こうした栄養摂取は不要です。栄養の質よりも、バランスの乱れが問題となります。最近は栄養管理の知識が普及し、偏食を避けバランスのとれた食事をする習慣も定着してきています。

ただし、偏食はいけないという基本原則は、加齢世代にとって不愉快なもの。むしろ各人の偏食パターンを正確に把握し、一日一回の補充で栄養バランスを正常化できるような補充食が必要なのです。

Q その補充食として、最近注目されている“免疫ミルク”とはどんなものですか?

A ヒトの赤ちゃんは、生後約半年くらいの間、自分では抗体や感作リンパ球をほとんど作りませんが、それでも病気にかかることは少ない。その理由は、胎盤を通して得た母親譲りの抗体と抗体を含む母乳にあります。

特に出産直後に出る初乳には、妊娠中に母胎が作りだした抗体や生理活性物質が濃縮されて詰まっています。「免疫ミルク」とはこの初乳のような働きをする成分を含んだ牛乳なのです。

かつて家畜として牛が身近にいた時代には、ヒトの病原体に対する抗体を持った牛の乳を飲むことによって、ヒトはその病気にならずに済んでいました。この点に着目したアメリカのスターリ社とミネソタ大学が開発した免疫ミルクが、偶然、自己免疫病ともいわれるリウマチやアレルギー患者に効果を発揮することが分かったのです。

免疫ミルクに含まれる抗体は、腸管からの細菌などの侵入を阻止することが分かっており、自己免疫病の症状を軽減するだけでなく、日和見感染症を予防する効果も期待されます。

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