ヘルシートーク:俳優・役所広司さん
山本五十六をはじめ、これまでも潔く凛々しい軍人役に挑戦してきた役所広司さん。戦後70年を迎える今年、公開される『日本のいちばん長い日』では、終戦間際の鈴木内閣で陸軍大臣を務めた阿南惟幾(あなみこれちか)を演じています。作品を通して感じたこと、京都などでのロケ中の食事について伺いました。
●戦争を知らない僕らが演じるプレッシャー 監督を信じてついていきました
『日本のいちばん長い日』は、1967年に製作された同名の映画があります。僕自身、中学生の頃から何度か観ていましたが、当時は内容よりも、「軍人さんは熱くてかっこいい」というイメージを持っていましたね。阿南大臣と、クーデターを起こそうとしている青年将校たちの切羽詰まった姿が印象的でした。
今回、監督からお話をいただいた時に前作を観返したのですが、当時のキャストは戦争を体験されている方々がほとんどですから、風格や貫禄があります。今作の出演者で、おぼろげにでも終戦の記憶があるのは、山崎努さんしかいないのではないでしょうか。
僕が演じた阿南大臣は、前作では三船敏郎さんが演じられており、三船さんのイメージが強烈だったので参ったなぁと思ったのですが、「原田監督なら、監督らしい作品をつくってくれるはずだ」と信じていたし、映画人のはしくれとして、このような作品に参加できるのは幸せなことだと感じています。
●将校たちと天皇との板挟みに 本人にまつわる資料を読んで役づくり
阿南大臣というと、徹底抗戦を唱える陸軍の青年将校たちと、戦争終結を聖断された天皇陛下との間に立ち、その板挟みに深く苦悩する姿が印象的です。部下を大切に思っていたからこそ部下から厚く信頼された人であり、なおかつ天皇に対する絶対的な忠誠心を持ち合わせていた人。そうでなければ、陸軍大臣として終戦を迎える仕事はできなかっただろうと思います。
役づくりとしては、阿南大臣にまつわる資料を読みました。当時の状況やさまざまな方からの証言、彼の生い立ちなどから、原田監督のシナリオに合うものを採用し、この時はこんな気持ちだったのではないか、この台詞はこんな話し方が良さそうだと、ワンシーンごとに考えていきました。
松坂桃李くんをはじめ、若い俳優たちの坊主姿も凛々しいですよね。彼らは本番に入る前に、厳しい軍事指導を受けて臨んでいたようです。
映画を撮り終えて感じるのは、やはり平和が一番だということです。戦争続行を唱えた人たちも、戦争が好きなわけではないでしょう。当時の人たちは、どういう国を自分の子どもたちに残していったら良いのだろうと考えていたのだろうし、家を出る時には「家族と会えるのは今日が最後かもしれない」という切実な思いを持っていたのではないでしょうか。
終戦はほんの70年前のことですが、私たちは忘れやすい。だからこそ、終戦記念日に向けて映画でもテレビでも、戦争にまつわる作品が製作されるべきだと思います。それと同じように、阪神・淡路大震災や東日本大震災も、風化させてはいけないと改めて思うのです。
●ロケ中は京都のおばんざいを堪能 カレーにはこだわりがあります!
ロケは昨年の秋、京都や兵庫、滋賀などで行われました。私たち俳優は日本で最も弁当を食べている職業だと思いますが(笑)、今回は撮影中にケータリングでカレーが出ることもありました。老舗のみたらし団子を差し入れていただいたり、おばんざいを食べに行ったりもしました。お揚げと菜っぱをだしで煮る「菜っぱ煮」がおいしかったですね。撮影中の良い息抜きになりました。
カレーといえば、昔、カレー屋でバイトをしていたことがあったので、味には結構うるさいんですよ。以前はカレーを時々つくっていました。みじん切りにした野菜をとろとろに煮て、最後に角切りにしたナスを入れるんです。納豆をかけるだけのカレーもおいしいですよね。妻のカレーも、だんだん僕好みになってきました(笑)。
夏野菜では、水なすを生でいただくのが好きですね。僕はお酒も飲むし食欲も衰えないので、毎日がウェイトコントロールとの戦いです!
●プロフィール
やくしょ・こうじ 1956年長崎県生まれ。1996年『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』の演技で国内14の映画賞で主演男優賞を独占。1997年には第50回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品『うなぎ』に主演。『CURE』で第10回東京国際映画祭最優秀男優賞を受賞。2009年に映画『ガマの油』で主演・初監督を務める。2012年、紫綬褒章を受章。2014年のシッチェス・カタロニア国際映画祭では、主演映画『渇き。』で日本人初の最優秀男優賞を受賞。同年には『蜩ノ記』の演技で第38回日本アカデミー賞にて優秀主演男優賞を受賞。7月より劇場アニメ『バケモノの子』、8月より『日本のいちばん長い日』が公開。
●Movie information
『日本のいちばん長い日』(アスミック・エース、松竹)
2015年8月8日(土)より全国ロードショー
原作:半藤一利
監督・脚本:原田眞人
出演:役所広司 本木雅弘 松坂桃李 堤真一 山崎努ほか
Story:太平洋戦争末期、連合国は日本にポツダム宣言の受諾を要求。降伏か本土決戦か、連日連夜にわたって閣議が開かれるが、結論が出ないまま広島、長崎に原爆が投下される。国民を案ずる天皇陛下と、閣議を動かす鈴木貫太郎首相、そして徹底抗戦を唱える陸軍と天皇陛下の聖断との間で苦悩する阿南惟幾陸軍大臣……。終戦に至るまでの知られざる真実を描く。
(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会