農福連携から6次産業化へ 埼玉比企丘陵の谷津田で酒米収穫

総合 ニュース 2019.11.18 11972号 03面
稲刈りを前に関係者にあいさつするイーピービズの南丈裕社長(右)と立正大学の後藤真太郎教授

稲刈りを前に関係者にあいさつするイーピービズの南丈裕社長(右)と立正大学の後藤真太郎教授

研究のためひもで区分けされた田んぼの稲を手作業で刈り取る南社長(手前)とHATARAKU LAB.のメンバーら

研究のためひもで区分けされた田んぼの稲を手作業で刈り取る南社長(手前)とHATARAKU LAB.のメンバーら

雨水をためた谷地の池や沼から水を引き込む谷津田といわれる埼玉県比企丘陵の水田で約1500年続いてきた稲作に、医薬品臨床開発受託企業EPSホールディングスで障がい者を雇用し特例子会社認定を受けたイーピービズの「HATARAKU LAB.」(ハタラクラボ)が挑んだ。将来の6次産業化を視野に、立正大学谷津田イノベーション研究会、農地所有適格法人のヘリテイジファーム、埼玉福興、農事組合法人の小原営農の助けを得て、埼玉県熊谷市小江川の日向沼の水を利用した谷津田「農福連携圃場」で農薬を使わずに今夏、酒米を育てた。たわわに実った稲は10日、関係者十数人が手作業で刈り取った。(川崎博之)

刈り取ったのは、稲の育ち具合、土壌成分の栄養分との関係、引き込んだ水がもたらす微生物の量、微生物の窒素を運ぶ働きなどを立正大学の修士生が九つの区画に分けて調査・研究している農福連携圃場(農地)の水を抜いた水田の一枚。農業機械を入れられる広さがないための人海戦術となった。

イーピービズの南丈裕社長は「谷津田の稲作は田植えから今年から参加させていただいた。きょうも稲刈りさせていただいて、これが日本酒になればと、権田酒造さんに先日、ご相談に行った。日本酒になったらぜひ乾杯をさせていただけたらと思っている。今年だけではなく今後も長く続けさせていただけたらと思っている」と関係者にあいさつし、自らも鎌を手にした。

イーピービズは、ハタラクラボで現在42人の障がい者を雇用している。社会からの要請がある障がい者雇用で利益が創出できる事業化の取組みを親会社EPSHDのグループ会社などへのリラクゼーションルームの提供、オフィス業務サポートなどで進めてきた。近年は、障がい者らが農業分野で活躍することを通じ自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組みとして農福連携が注目されていることから、農業分野にも乗り出し、熊谷市近郊の露地での玉ネギ、白菜の栽培、ハウスでの育苗、利根川を挟んで隣接する群馬県太田市近郊でのオリーブ栽培を進めてきた。日向沼の谷津田「農福連携圃場」での酒米づくりもその一環。熊谷市の老舗酒蔵、権田酒造にこの酒米を原料とした日本酒造りの協力を求めているという。

日向沼の谷津田「農福連携圃場」は埼玉県の比企丘陵の一角。大小200とも300とも言われるため池を擁するこの地域では、熊谷市のほか近隣の滑川町、深谷市、東松山市、小川町、嵐山町、吉見町、寄居町が参画した比企丘陵農業遺産推進協議会が約1500年続いてきた谷津田の稲作を農業文化として世界農業遺産への登録を目指している。まずは来年の6月に日本農業遺産への登録申請に向け準備を進めている。

比企丘陵農業遺産推進協議会の相談役も務める立正大学の研究推進・地域連携センター長で地球環境科学部環境システム学科の後藤真太郎教授は、南氏に先立って関係者にあいさつし「ため池が枯れると水はなくなってしまう。大事に使っていたという農業の文化が1500年前からある。文献として残っているのは100年前のため池の地図。ため池のところに集落、小字というのだが、そこでため池の水をコントロールしている。今でもそうしている。その小字の区画が100年前と同じだということが分かった。そういう歴史を来年の6月ぐらいに日本農業遺産として申請したい」と今後の抱負を語った。

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