タイでプラごみ激増 コロナ感染第3波、食事宅配急伸が影響
2027年までにプラスチックごみの完全リサイクル化を目指すタイで、新型コロナウイルスの感染拡大によるごみの排出量が激増している。3月末から始まった感染第3波による影響で飲食店の営業が軒並み規制され、食事の宅配が急増しているためだ。使用されるプラ製食器や包装袋などはリサイクルの許容量を超え、大半がそのままごみとして廃棄されている。プラごみ削減に向けたロードマップ(工程表)にも影響が出かねない情勢だ。
タイで現在流行している新型コロナウイルスは英国由来株。従来型よりも感染のスピードが1.7倍も速いとされ、重症化率も高い。1日当たりの新規感染者は4月半ばに初めて1000人の大台を超え、現在は3000~4000人台を中心に高止まりしている。死亡率も2ヵ月間で3倍に急伸した。人工呼吸器を装着するなどの重症者も一向に減る気配にない。
このため政府は、人の接触が密になる飲食店やマッサージ店などの営業を強権で規制。抑え込みに全力を挙げている。一部の規制は緩和したものの、接触頻度が高くなる飲食店での酒類の提供はバンコクなど感染の残る都県で引き続き厳禁とし、営業時間の制限も継続している。
消費者の多くは家に引きこもり、自宅で食事を取るようになった。そこで利用するのが、民間によって利便性の増した食事の宅配だ。スマートフォンの簡単な操作だけで、飲食店で味わえるものと同じ料理を自宅で堪能できる。大手宅配業者5社に登録した加盟飲食店はすでに12万店を超えた。宅配業者の中には株式の新規公開を進めているところもある。
宅配の急伸によって深刻化したのがプラスチックごみの増加だった。バンコク都庁によると、首都圏におけるプラごみの排出量は直近3ヵ月間で6~7割も増えた。しかし、再利用されているのは全体の2割弱で、残りは一般ごみとともに焼却されるか埋め立てられているという。首都圏のごみ処理全体にかかる年間経費は約60億バーツ。今季はこれも大幅に上昇する見込みだ。
プラごみの激増は、国のリサイクル計画にも影響を与えようとしている。政府は19年、プラごみの完全リサイクル化に向けた工程表を作成。22年までに発砲スチロール製の食品容器や使い捨てのプラ製カップなどを全廃し、27年までに完全リサイクル化を達成するとしている。ところが、深刻な感染第3波のまん延で早くも黄信号がともり始めている。
経済や環境に与える影響も大きい。世界銀行によると、タイでプラごみがリサイクル化されていないことによる経済的損失は年間で最大40億バーツにも上る。今後はごみ処理事業の拡大に伴う経費の増加も予想されることから財政負担は無視できない。
加えて、食事を提供する飲食店では宅配業者に売上げの一部を天引きされることから、少しでも安価な包装容器を選ぶ傾向が強まっている。一時は浸透し始めた高価な生分解性容器も敬遠されるようになり、環境への負荷も高まっている。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)