タイの食品輸出、ウクライナ危機で伸長
ロシアによるウクライナ侵攻を機に、東南アジアのタイからの農産物・食品の輸出が急拡大している。ロシアとウクライナからの小麦の輸出量は合わせて世界の3分の1近くを占めるが、戦争で輸出が滞っていることから、タイ産の農産物などが代替品として補っている形だ。特にコメの輸出が急増しており、タイ政府としては思わぬ特需に期待を膨らませている。
タイ商務省によると、ウクライナ侵攻が始まった2月末以降、タイから海外に向けたコメの輸出額は、3月が前年同月比54%増の約3億5000万ドル、4月が44%増の約3億ドルと高水準が続いている。5月も堅調で、コロナ禍ですっかり低迷した看板商品の回復が進みそうだ。
このためタイのコメ輸出業協会は、20年に600万tを割り込み、21年も611tと低迷したタイ産米の今年の年間輸出量が、当初予測の700万tから800万tを大きく超えるものと早くも上方修正を行っている。戦況いかんでは、さらなる上積みが見込めるという。
タイ産米の輸出は、かつて年900万~1000万t前後と世界一を誇ったこともあったが、インドやベトナムなどの台頭が著しく、一時のバーツ高だけもあって最近は以前の勢いをすっかり失っていた。現在の首位はインド産で、近年は香り米(ジャスミン米)の品質向上を進めてきたベトナム産にも後れを取るようになっていた。
ウクライナ危機に端を発した好況は、コメだけではなくキャッサバや油脂、砂糖、加工食品などの輸出にも及んでいる。農業・協同組合省によると、今年の農産物および加工食品の輸出見込み額は前年比17%増の約1兆4000億バーツ(約5兆円)。このうち、鶏肉や果物などの加工食品は13%の増加を見込んでいるほか、4月だけでも油脂類は2.3倍、砂糖も2倍近い高い伸びとなった。
ただ、不安がないわけでもない。長引くコロナ禍などからタイ国内の食品や農産物は軒並み値上げを続けており、これが輸出に影響を与える懸念が生じている。また、輸出が拡大するあまり、国内向けの飼料用トウモロコシや大豆かすなどが不足する心配が業界団体から寄せられており、政府も頭を悩ましている。
さらに、コロナ禍で帰国が相次いだ周辺国のミャンマー、カンボジア、ラオスからの出稼ぎ労働者の復帰がいまだ回復せずにおり、労働者不足が深刻になりつつある。コメなどの農産物が豊作であっても、収穫や加工作業に従事する労働力が確保できなければ、安定的な輸出は見込めない。
このためタイ政府は周辺国との覚書を相次いで交わすなど、労働力不足の解消を急いでいる。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)