FABEX2022:全国和菓子協会・藪光生専務理事 「選ばれる菓子作り」が重要

全国和菓子協会の藪光生専務理事

全国和菓子協会の藪光生専務理事

◆デザート・スイーツ&ベーカリー展 プレゼンテーションステージ

デザート・スイーツ&ベーカリー展プレゼンテーションステージでは15日、全国和菓子協会の藪光生専務理事が「和菓子産業の現状と未来」をテーマに講演した。日本の「伝統的酒造り」が無形文化財に登録されたのに続き、現在和菓子の無形文化財登録を文化庁に働きかけており、順調に行けば年内に実現するという。藪氏は「無形文化財登録を起爆剤に和菓子の良さを訴えていきたい」と話した。

和菓子の現状について藪氏は、生産金額が減少の一方で、家庭内需要は堅調に推移していると紹介。コロナ禍で都市部や贈答需要が大きな影響を受けたが、地域によっては売上げが2割増になった和菓子店もあるという。しかし売上げ規模が小さく、業界全体では減少傾向に変わりはないと話した。

19年の和菓子の生産金額は3812億円で、10年前と比べて15%減少。和菓子は進物品の規模が大きく、贈答需要の減少が大きく影響している。法人需要は中元・歳暮の慣習が減少。和菓子は年中行事との結び付きが強く、彼岸や節句の菓子は売れ筋だったが、核家族化の進行で行事食の継承が難しくなっていると話した。一方、家計調査を見ると家庭内需要は伸びており、今後も堅調に推移すると予測した。

和菓子業界は企業や店の数が緩やかに減少しているが、理由の一つに後継者不足を挙げる。売上げ規模から考えると、後継者を育成するに至っていないと指摘する。傾向として5000万円の売上げがある店は後継者がいるが、3000万円以下では事業の継承は厳しいと話す。「親子や夫婦で経営して一緒に暮らす分には十分に生活できても、核家族化で分かれて暮らす現代では、二世帯の生計相当の売上げがないと生活を維持できない」と持論を展開した。

和菓子業界は店舗や道具、機械などの初期コストが負担となり新規参入が少なく、原材料や資材などの値上がりも課題となっている。和菓子は国産材料を使うことが多いが、増産の可能性は少ない。藪氏は「業界が値上げをちゅうちょする傾向が気になる。それが業界の元気をむしばむことになりかねない」と危惧する。

さらに問題なのが、人手不足の深刻化だ。海外からの技能実習生のうち、食品業界で働くのは19%程度だが、和菓子の世界は外国人労働者の受け入れを敬遠する傾向にあるという。人手不足で外国人労働者を受け入れるとなると、業界特有の徒弟制度の名残や、給料、勤務時間の問題などの改善も必要と話す。

一時期、パンメーカーなど異業種からの参入が脅威とされたが、現在は街の和菓子店と一定のすみ分けができている。ただ、ここにきてコンビニ和菓子が増加。「一日に平均15個売れると考えると2000~3000円程度だが、コンビニは数が多い。小さい和菓子屋にとってボディーブローのように効いてくる」と語った。

複雑化する法律や制約への対応も課題となっている。小規模零細では原料原産地表示やHACCP衛生管理などへの迅速な対応は難しく、廃業に拍車がかからないかと懸念を示す。

一方、藪氏は和菓子の未来について見通しは決して暗くないと指摘する。和菓子の持つ食の役割を「心の栄養」という言葉で表現。楽しみが少ない環境においては精神的充足を求める傾向が強まり、今後も家庭内需要は堅調に推移すると予測した。

和菓子の喫食層について若い人が食べないイメージがあるが、過去の消費調査では加齢による嗜好の変化が顕著となっており、心配の必要はないという。高齢化の到来は決してマイナスではなく、むしろ追い風になっていると話す。また和菓子の主原料である豆類はビタミンB群、ミネラル、食物繊維、ポリフェノールを含み、健康意識の高まりから注目される食べ物だと語った。

今後、異業種からの参入や企業間競争の激化が予測される中、生き残っていくためには「選ばれる菓子作り」が重要だと強調する。和洋菓子団体が共同で行った調査によると、消費者の菓子購入時の選択要素は「味が良い、おいしいもの」が88.5%と最も高く、「包装が綺麗であること」は4%で最下位だったことを紹介。300~400年前からある「ようかん」「もなか」が、いまだに和菓子の主力商品であるのは、商品の完成度が高く商品力を高めてきたことにあると話す。最後に藪氏は「和菓子屋が少しでも良いものを作り、自信を持って品物を売っていただきたい」と結んだ。(三井伶子)

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