忘れられぬ味(44) ニコニコのり・白羽 悟社長 私の味の喜び
還暦を迎えた私ですが、いま思い出すのは終戦前後の、食糧事情が悪くまともに食べられない時に、実家が食料品の商売をしていたことで、貴重な品のパイナップルの缶詰などをたくさん食べることができた喜び。また一方で同年代の多くの人が経験したように、芋蔓の煮物やだんご汁など、いまではあまり考えられない物で腹ごしらえをしていたことなどが思い出されます。
それはさておき、海外などの旅行時のちょっとグルメでちょっとリッチな私の食体験を紹介させていただきます。六年前だったと思いますが、オーストラリアのケアンズに行った時、この地の名物は何ですかとたずねたら「マドクラブ(泥蟹)」と聞き、早速食べに行きました。マングローブに棲息するカニで、色は濃緑色のワタリガニに似ていて、茹で上がりを特別な味付けをせず、酢醤油だけで食べるのですが、その味は絶品でした。いろんなカニを食べていますが、秋の旬のワタリガニ、毛ガニに負けず劣らずのおいしいマドクラブで、いまでも忘れられない味です。
デザートとしてはシンガポールのシェラトンタワーホテルの「李白」のマンゴプリンは実においしく、何とも言えぬ口ざわりとマンゴの香りがしてシンガポール滞在中、食事抜きでも食べに行きたい逸品です。
国内で紹介したところは佐賀県浜玉町の料理店「飴源」で、四季折々の旬の料理は天下一品で、自信を持っておすすめできます。「飴源」さんは天保9年創業で一六〇年の歴史ある料理屋で、地元政治家の故保利茂氏、故金丸信氏や竹下登代議士、羽田孜代議士も利用された老舗です。
簡単に紹介しますと、春の白魚のさしみにはじまり、夏は鮎の取り立てを塩焼きして食べると苔の匂いのする本物の味がします。秋は柿の木が紅葉している頃の川蟹が旨く、生きた川蟹を四ツ割にしてコメと一緒に炊いた「炊き込みごはん」の炊き立ては何杯でもおかわりしたくなるほどの絶品で、翌日になってお茶漬けにして食べる味もまた格別です。秋の山女(ヤマメ)も子持ち山女で美味しく、食欲の秋にふさわしい料理です。いずれにしても季節に合わせた旬の味を大事にした料理は忘れられず、その時節になると飛んで行きたくなるほどの美味です。
北海道の9月の秋刀魚の旬の頃の味など、旬料理を地方地方で食することの楽しみ、喜びの上にそれぞれの特徴のある料理屋との出会いなど、当社の「笑顔の食卓文化」そのものを感じます。いつまでも美味しさを求めて、全国を食べ歩きすることができればこの上もなく幸せと思う次第であります。
(ニコニコのり(株)社長)
日本食糧新聞の第8356号(1998年4月13日付)の紙面
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