忘れられぬ味(78) 明星食品元社長・八原昌元 麺の食べ歩き

麺類 統計・分析 1998.09.30 8429号 2面

私がまだ現役の頃、マスコミの人たちから「八原社長の趣味は何ですか?」とよく聞かれたものだ。その度に「美しいものを見ること、美味しいものを食べること」と答えていた。それは私個人の趣味でもあるが、食品メーカーとしての実益でもある。

ひまがあれば美術館に行ったりお寺の庭を見に行ったりする。それに昔から食い道楽で、美味しいものには目がない。地方に行くと支店長がその辺のことを心得ていて、旨いといわれる店に案内してくれたり、ちょっと変わった蕎麦屋につれて行ってくれたりする。

とくに麺づくりは私の畢生(ひっせい)の仕事である。本当に美味しいといえる麺の探究は単なる趣味や道楽の域を超えたものである。そういうこともあって食べ歩きはよくやった。この頃は年をとったせいか蕎麦屋に行くことが多い。蕎麦は痩地でも年三回獲れるので救荒作物といわれていたが、味は決して不味くない。いま風の濃厚な調味ではなく、素朴ともいえるが、滋味で品がある。そして飽きることがない。

蕎麦の味は「三たて」が最高といわれている。もちろん手打ちである。「三たて」とは挽きたて、打ちたて、茹でたて、ということで、名の通った老舗や地方の名店では「三たて」をやっているから旨い。たとえば神田のまつ屋、並木薮蕎麦、清春の翁、戸隠蕎麦などである。

うどんはやはり関西に旨い店が多い。大阪にもいろいろあるが、徹底しているのは讃岐である。

香川県は即席ラーメンの利用率が全国で一番少ないところであるが、その代わりうどん好きが多い。こしの強い手打ちの店がいたるところにある。それも釜あげとかざるうどんのように、うどんそのものの喉ごしの味を楽しむという風である。

最後にラーメンであるが、何といってもラーメンの故郷は中国である。中国の中でも揚子江の北、山西省の太原が麺のふるさとといわれている。

私も何回か中国の麺を尋ねて行ったが、いまでも忘れられないのは太原の実習飯店である。ここは麺の技術者の養成を兼ねた国営の店で、拉麺、刀削麺、猫耳朶などの名人芸をじっくり見せてもらったが、特に一本が一二八本になる拉麺の鮮やかなお手並みには感心した。これは後日談だが、日本の商社の人がその店に見学に行ったら、日本の明星食品の八原社長が激賞していった、ということが額にしてあったということで、それには恐れいった。

(明星食品(株)元社長)

日本食糧新聞の第8429号(1998年9月30日付)の紙面

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