忘れられぬ味(84) ヤマモリ社長・三林憲忠 素材とニコニコ顔

統計・分析 総合 1998.11.04 8447号 2面

この原稿の依頼を受け、何を書こうかと考えましたが、結局私の知っている美味いお店を紹介することが良いのではないかと思い、以下に紹介いたします。

名古屋の広小路伏見の交差点から一本栄町よりの道を左に入った所に、「鯛めし楼」という大変美味しい日本料理店があります。有名なお店ですから、多くの皆さんがご存知のことと思います。

何が美味しいかといいますと、全て美味しい訳ですが、その中でも私は「潮椀」と「別鯛茶」が絶品だと思います。「鯛めし」も美味しいです。さてこの「潮椀」ですが、厳選した伊勢湾の新鮮な鯛を使っている訳ですから、その身がしまっていて美味しいのは当然のことですが、それだけではありません。その「だし」がまたとてもサッパリとしていて、とても繊細な味なのであります。うまく表現できませんが、とにかく一度食して頂きたいと思います。

実はこのサッパリとした「だし汁」を、いったいどんな方法で取っているのかをどうしても知りたくて、ご主人の鈴木晴視社長にお願いして、板場の了解を取っていただき、調理場にビデオを持ち込み当社の商品開発担当者数名を伴って、最初から最後まで仕込みを見せて頂いたことがあります。今思うと大変無理難題をお願いしたものだと反省致しております。

そして、わかったことがあります。それは材料である鰹節や昆布が違うということでした。最高級の材料をふんだんに贅沢に使い、さっと「一番だし」を取っているということでした。もちろんこれらの材料の持ち味を余す所なく引き出すのが、職人さんの高等技術なのだと思いました。

しかし、何といっても和食は材料素材が最も重要なんだということを、この体験を通して痛感いたしました。

当社も「そのままつゆ」のブランドで、「そうめんつゆ」や「そばつゆ」を製造販売しておりますが、翌日すぐに自社で使用している原料をチェックして、さっそく原料のグレードを二ランクも三ランクも上質なものに変更するように指示いたしました。

次に「別鯛茶」ですが、これは新鮮な鯛の刺し身を、この地域独自の調味料であります「たまり」に黒胡麻・わさびをからめて、そのまま温かいご飯にのっけて頂くもよし、これに「たまり」と一緒にお茶をかけて茶漬けとして頂くもよし、これもまた格別に美味しいのです。

しかし何といっても、これらの料理をより美味しくしているのが、鈴木社長の奥様である女将さんのニコニコ顔であることは、まぎれもない事実です。

これらの理由から、極めて個人的な見解ですが、「鯛めし楼」ではカウンターにお座りになることをお勧め致します。

(ヤマモリ(株)社長)

日本食糧新聞の第8447号(1998年11月4日付)の紙面

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