忘れられぬ味(87) 理研ビタミン社長・堺 美保、正月雑煮のうまさ

総合 統計・分析 1998.11.16 8452号 2面

終戦後間もない小学校入学である私にとって、その当時の年末年始の伝統的な料理の中にいくつかの忘れられない味が思い出される。日常の食生活は今から見るとまさに粗食であり、小学校時代は弁当に梅干一個という生徒はたくさんいたものである。いなごも貴重な食糧であり、いなごとりや稲刈時に落とした落穂拾いなど、学校を一日、二日休んでの学校あげての一大行事であった。6月の田植えの時期は農家の子供達は家の手伝いで学校は農繁休業で休みである。東北の年末年始は、大晦日に一年で一番の料理が出る日である。従って年末に上野や東京駅から故郷へ帰る年末列車が混雑するのは当然のことである。

さて、忘れられない味となるとやはり、正月の雑煮である。大根・人参の細切りしたものを一度湯であげ、一定量丸めて寒い冬の外で凍らせる。これを正月三日間使用する。鶏肉と良く乾したハゼのだしをとり、そこに凍ったままの大根と人参の千切り、いもがら、なると巻、凍豆腐を入れ、最後にせりを入れた雑煮である。餅は焼いたものを入れる。醤油味である。一年に正月三日までの三回だけこの雑煮が食べられるわけであるが、毎日が粗食であるだけにこれはおいしかった。今でも我家ではこの雑煮を作り続けており、食の豊かになった今でも決して見劣りしない立派なおいしい料理として生き続けている。かしわとハゼの合わせだしは、くせのないこくのあるだしを出すものであり、一度ゆがいた大根の味と相まって調和のとれた味のベースを作り出している。

この雑煮のおいしさの秘訣は何かと考察してみると、実は大根と少量の人参の千切りをアクを取るために一度ゆがき、それを凍結させたものを使用するところにあるように思われる。アクの抜けた大根の味、そして凍結変性によって出て来る野菜の食感が重要な役割を演じているのである。大根は切り干しすることによっても独特の食感とおいしさで保存性のある食材として広く活用されているが、大根の味と食感がこの雑煮にとっては欠かせない、重要な素材なのである。大根なしではこの雑煮の味は出ない。だしの研究素材としては、畜肉・魚貝類・茸類が一般的に良く研究されているが、意外と身近な野菜に重要な役割を演じるものがあることを改めて研究してみる価値があるようだ。特に私の忘れられぬ味の本質となっている大根の呈味成分についての研究に価値があるようだ。野菜はビタミン・ミネラルなどを中心とする微量栄養素や生体調節成分についての研究は多いが、呈味成分についての研究は少なく、これからの食品開発にも役立つのではないかと考えている。

(理研ビタミン(株)社長)

日本食糧新聞の第8452号(1996年11月16日付)の紙面

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