忘れられぬ味(6)小西酒造・小西社長 大食漢からグルメへ
子供の頃から食べ物に好き嫌いがなく、何でも大好きというところがあった。それでも今も忘れられない味はたくさんある。
「酒」と「食」との関係は特に深いところから、両親は料理の味や、敏感に反応するいわゆる肥えた舌となるような、目に見えない教育(食育)を施してくれたようである。
いくつかの例をあげよう。子供の頃家族で買物をした後、阪急百貨店の特別食堂の「福喜」によく連れていってもらった。その頃から大食漢の私はまず、ちらし寿司を一人前注文してからにぎりを食べたものであるが、その時食べた「穴子」や「玉子」の味が忘れられず、今でも大好物の一つとなっている。
また土佐堀の天ぷら「一宝」では、姿の整った旨みのある「海老」の一つがびっくりするような値段とも知らず、何度もお代わりをしていた。今から考えるといかに贅沢をさせてもらっていたのか、知らない者の強みとはいえ赤面ものである。
大学を卒業して二年間英国に研修留学中、お腹がすいたらいつも食べていたテイクアウェイの「FISH&CHIPS」の味や、帰国後ぜひ食べたいものは何かと聞かれて選んだ「エビフライ」の味など今でもどういう訳か忘れられない。
また英国生活の中では切っても切れない「パブ通い」で覚えたエール系のビールの味わいが、現在のベルギーのスペシャルビール輸入につながり、それがまた地ビール製造のきっかけになっているのも自分ながら不思議な縁であり、忘れられない味でもある。
オーストラリアで現地の米を使った酒造りを念頭に渡豪した時も「食」との出会いはあった。シドニーにあるマリーゴールドという中華料理店で食べた「あわびのしゃぶしゃぶ」やタスマニア産の蕎麦を使って出してくれる「新ばし」の蕎麦の美味しいことなど、海産物や現地日本食の味のレベルを見て、この環境であれば豪州で造った清酒も良く売れるのではないかと「にんまり」した経験がある。
何か取りとめもない文章になってしまったが、これからも好奇心を持っていろいろなものをたくさん食べて多くの「忘れられない味」を経験したいと思っている。
(小西酒造(株)代表取締役社長)
日本食糧新聞の第8633号(2000年1月7日付)の紙面
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