忘れられぬ味(16)日本食研・大沢一彦社長「大アマゾンを食べる」
私は一〇年前(平成元年)の10月、一二日間にわたって南米のブラジルを訪問する機会を得ました。目的のひとつであったアマゾン川での体験は、今でも鮮明に脳裏に焼きついています。
ご承知のとおり、アマゾン川は世界三大河川のひとつで、その流域面積は世界最大規模を誇っており、スケールの大きさにはまったく圧倒されてしまいます。私はアマゾン川のほぼ真ん中あたりにあるマナオスという町で船に乗り込みました。マナオスは河口から一〇〇〇キロメートル以上も上流であるにもかかわらず、川の対岸がみえないところもあり、流れは非常に緩やかで、どちらが上流でどちらが下流なのかちょっとみた目にはわかりません。
さて、アマゾンに棲む魚といえば、まず頭に浮かぶのはピラニアではないでしょうか。私達は早速、このピラニア釣りに挑戦することにしました。ピラニアの釣り方は、牛肉の赤身をサイコロ状に切ったものを餌にして、釣竿の先で水面をバシャバシャ叩くというものです。普通の魚なら逃げてしまうところですが、獰猛で好奇心の強いピラニアはそれが獲物があがいている音だと近寄ってきて、たちどころに牛肉の餌に喰らいついてくるのです。釣ったピラニアは刺身にして食べるのですが、白身でコリコリしており、その容貌からは想像もつかないくらい最高においしいものでした。
ピラニアの次はワニ捕りです。夜を待って小舟でアマゾン川の支流に入り、岸辺の草むらを懐中電灯で照らすと、草むらの中で目がピカリと光ります。ワニです。もちろん、大きなワニだとこちらの腕がなくなってしまいますので、狙うのはもっぱら小型のワニです。捕らえたワニはから揚げにしましたが、鶏肉を少し硬くしたような肉で淡泊な味。これも結構いけました。
こうしてアマゾン探検を楽しみ、大自然の中で貴重な食体験をした二日間でした。
余談になりますが、アマゾン川を遡行していると、森の中にポツンポツンと原住民の住居が見え隠れしていました。彼らは何をするでもなく、大自然とともにのんびりと生活しているように私の目には映り、それもまた人間のひとつの生き方かなと感じたのを思い出します。
(日本食研(株)社長)
日本食糧新聞の第8657号(2000年3月3日付)の紙面
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