忘れられぬ味(49)鈴茂器工・鈴木喜作代表取締役「中川の鮎料理」

連載 機械・資材 2001.05.09 8840号 2面

このところ日々多忙を極め、食味に特別な時間を費やす暇もなく場当たりな食べ物で暮らしているせいか、“忘れられない味”と問われても、いささか戸惑いを感じる。職業柄食べ物に縁遠くはなく、むしろ身近な環境にいる。不思議なもので、びっくりするほど美味しいものに遭遇した記憶がない。

今から三〇年ほど前、栃木県烏山の瀬尾木材(株)を訪ねた折、社長の案内で中川の渓流にあるヤナで思わぬご馳走にあずかった記憶がある。生け簀の養魚ではなく、本流から獲り立ての鮎料理だった。見事な板前さんのお造り、鮎の刺身だった。後から聞くと、五匹ぐらいを調理してやっと一人前の刺身になるそうだ。贅沢な食べ物と言うより表現しようもない美味しさであった。ペロリとたいらげた。続いて鮎の串差しの新聞紙の釜焼き。これがまた何とも例えようのない美味しさで、汁もご飯も無心にほおばった。腹一杯食べたわりに、食べ過ぎの息苦しさが不思議となかった。自然の味覚を素直に食べられた。月並みな言い方をすれば、生きていてよかったなあ、と思った。

これからも各地を旅しながら、いろいろな人に接し、いろいろな食べ物にも遭遇し、生きる喜びを味わいたいと考えている。日本の高級嗜好食品である寿司を大衆食品の域に誘導したと自負することから、今度は私自身の手で、驚嘆に値する食べ物を創造したいと考えている。

(鈴茂器工(株)代表取締役)

日本食糧新聞の第8840号(2001年5月9日付)の紙面

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