ナカバヤシ、製本業と農業を両立 閑散期に地域農業活性化
【関西発】製本業で国内最大手のナカバヤシは、業務の閑散期を農業で解決する。春・夏が繁忙期となる製本業と、秋に繁忙期を迎えるニンニク栽培事業を組み合わせ、季節によって凹凸の激しかった業務量の平準化を実現。製本業と農業の両立で持続可能な経営モデルを確立するとともに、耕作放棄地の有効活用で地域農業活性化にも貢献する。(岡田幸子)
●耕作放棄地でニンニク栽培
同社は図書館製本・古文書の修復業で1923年に創業。複数冊の雑誌を1冊にまとめる雑誌合冊製本や、古い資料の修理・修復など専門性の高い事業を手掛けてきた。近年はアルバムなどの紙製品加工、事務用品の製造販売も展開するが、デジタル化の進展で紙を扱う主力事業が減速。「日本で数少ない製本技術を有する企業として、事業存続のために新たなビジネスモデルの構築が急務だった」と小谷英輔兵庫工場長は農業参入の経緯を話し、「メーンクライアントである大学図書館からの注文は、大学が春季休暇となる1~3月と夏季休暇となる7~9月に集中する。それ以外の期間は工場稼働率が一気に減るため、安定的な雇用確保が難しい状況にあった。かといって製本や修理修復の技術習得には時間を要するため、繁忙期だけ増員することもできない。何かよい策はないかと思案し、逆の繁閑サイクルを持つ農業を製本業と組み合わせる方法を思いついた」と続けた。
2015年に製本工場を構える兵庫県養父市でリーフレタスなどの栽培に着手。翌年に同市が掲げる「にんにく産地化プロジェクト」と連携し、ニンニク作りをメーンに切り替え事業を軌道に乗せていった。「地元で長年製本工場を営んでいたことが幸いし、周辺農家の理解をスムーズに得ることができた。今では近隣農家が栽培するニンニクの販売も請け負い、地域農業活性化に向け加工品開発にも注力している」と小谷氏は直近の営農状況を語る。加工品は自社ECサイトなどを活用して販売。地元企業のオリバーソースと共同開発した「にんにくウスターソース」、おかきメーカーのげんぶ堂の協力のもと作った「にんにくおかき」などが購入できる。
農業参入をきっかけに、健康、環境、福祉、農業、文化の五つの視点を切り口とした「生命関連産業」を同社の新たな事業モデルに打ち立て、太陽光発電などの新分野への挑戦も開始。継承すべき事業と成長のための事業を巧みに組み合わせ、独自の企業価値拡大を進めている。