ソムリエ店員がカッコよく焼く姿でおいしさ3割増し 焼肉店トレンドはローサー
焼肉は、客が肉を好きなように焼いて食べる、皆でロースターを囲んで賑やかに食べるのが醍醐味であるが、昨今は様子が変わってきた。店員が肉を最適なおいしさに焼いてくれる「ロースト・サービス」(以下・ローサー)が増えているのだ。と同時にローサーの価値向上を後押しする「焼肉協会認定ソムリエ」が注目され始めている。
認定ソムリエが最適なおいしさを演出
日本フードサービス協会の月次統計によると、焼肉業界は過去約8年間、対前年同月比の既存店売上げが右肩上がりで推移。無煙ロースター製造・最大手のシンポ(株)によれば、同時期の新規出店数は毎年2桁増を維持。焼肉の市場規模は、店舗数・約2万2000軒、年商・約1兆2000億円と目され、外食産業の一業種から焼肉産業に独立するかの勢いを見せている。
さらなる発展に向かう焼肉業界の課題は、肉ブームが日常食として定着する中、「肉慣れした客層をいかに満足させるか」である。その方策が自慢の肉を最高の状態で食べさせるローサーであり、ローサーの姿は職人気質に見栄えすることから、全国的に導入が広がっているのだ。
ローサーの利点はそれだけではない。焼きながら肉の特徴を説明したり、客の要望を聞いたり、接客ツールも兼ねるため、マナーや知識の向上を図る店員の自己啓発にも役立つ。
全国焼肉協会は2016年から毎年11月に「焼肉協会の検定ソムリエコース」(以下・認定ソムリエ)を実施。受験者・約450人の合格率は10~15%と容易ではないが、志願者の多くが認定資格バッチを着用したローサー・デビューを目指しているという。
かつて高級店に限られたローサーが、認定ソムリエの根拠を持って中級店以下に広がることは、焼肉の発展を力強く後押しする。実践事例を紹介する。
高級店のおもてなしを下町でも
「黒毛和牛焼肉 うしくろ」は、「都心の高級店のおもてなしを下町の焼肉でも」(韓永紀社長)として2年前からローサーを始めた。店員が「焼き上げましょうか?」と声をかけると、9割の客が「お願いします」と答えるという。ローサーの対象は、焼くのが難しいステーキカットや焼きしゃぶなどの薄切り。

臼井教夫統括支配人は「店員が焼くと人手は1・5倍。でも、焼いている姿がカッコよければおいしさは3割増し」と語り、韓社長は「お客さまの財布のひもはますます固くなる。その中で選ばれるためには料理だけではダメ。スピードやサービスなどすべての項目で80点以上は当たり前。その中で一つ100点以上が必要」と説く。
「黒毛和牛焼肉 うしくろ 東陽町店」(経営:サンエイフーズ)/所在地=東京都江東区東陽3-24-9/坪数・席数=60坪・90席(16卓・20ロースター)
焼肉プロの説得力を演出
「焼肉家ごんたか」では、お薦め日替わりコースを「焼肉協会認定のソムリエ・堀切達也監修コース」と名称を改めて提供したところ、注文数が1・5倍に跳ね上がったという。

堀切達也社長は「認定ソムリエの資格があると、従業員にもお客さまにも説得力がある。今までは、焼肉のプロといっても我流のプロ。しかし、認定ソムリエを取得したことで世間に胸を張って焼肉のプロだと発信できる。他の社員にもチャレンジさせたい」と語り、「今後は、お客さまの要望を聞きながら『このお肉が、お客さまにはピッタリですよ』と自信を持って提案し、すべてのお客さまを笑顔にしたい」と意気込む。
「焼肉家ごんたか」(経営:権享)/所在地=埼玉県吉川市木売新田5-1/坪数・席数=85坪・102席(19卓)
経験だけでなく根拠をしっかり
「黒毛和牛焼肉 凱旋門」は、黒毛和牛の雌牛のみにこだわった高級ブランド店。一昨年、認定ソムリエを取得した進藤伸幸店長は、「長年の経験だけでなく、協会主催の認定ソムリエを得たことで、従業員に肉の部位を教える場合も食肉文化の歴史から栄養素などまで、より深く自信を持って教えられるようになった」と語る。

当然、この自信は接客にも生き、「部位の説明などでも会話の幅が広がった」という。今後の活用策としては「ソムリエお薦めコース」を検討中だ。「できれば最高価格のコースで。そうすれば認定ソムリエの知名度も存在価値も上がるはず」と意気込む。
「黒毛和牛焼肉 凱旋門 奥の院 八千代緑が丘店」(経営:赤門)/所在地=千葉県八千代市緑が丘西2-9-1/坪数・席数=84坪・109席(20卓・24ロースター)