中国酒大研究「招興酒」 “延年益寿”健康志向でも時流に
第三点は、清酒がコメ麹を使うのに対して、紹興酒は麦麹を使う点である。
紹興酒は、もち米を主原料として、紹興で醸造されるのである。特に紹興でというのは、同じように醸造されたものでも、紹興以外で醸造されたものは紹興酒と称することは許されずに、単に老酒としかいえないのである。
これは、ワインのシャンパンとスパークリングワインの場合と同じで、いわゆる産地呼称である。老酒のうちでも、紹興産のものだけが特に良質であるので、紹興酒と誇らかに呼ぶのである。現在、上海、福建、江蘇、北京など中国の各地で老酒が造られているが、これらは紹興酒という名が使えない。
日本の二六倍の面積を持つ広大な中国で、物流の問題などから、北京や大連のような北京地区では主として白酒(パイチュウ=蒸留酒)が、南部の上海などでは紹興酒・老酒が昔から飲まれていた。近年、所得水準の向上や物流の発達改善によって、紹興酒が全国に普及して、北京や大連でも盛んに飲まれている。
やはり、アルコール度数の高い酒は、健康上問題があるという意識が一般に広く考えられているようだ。何しろ白酒は、普通五〇度前後という高い度数。そのために、ひところの半分程度まで消費が減っている。それに比べ紹興酒は、大きく生産量が伸びている。
中国では、ビールの消費も、この数年来毎年二〇%以上も伸びて、とうとう日本の消費量を追い越したとのこと。しかし、一人当たりの消費量は、まだ日本のそれの一〇分の一である(人口は日本の一〇倍強)。
今日の中国では、お酒は収入の割に高いものなので、一般人が毎晩飲むのは大変なようである。
中国の最高指導者〓小平さんは、毎晩小さいグラス一杯の古越龍山(紹興酒の一銘柄)を飲んでおり、このために健康であるとの談話が、昨年中国の日刊紙に掲載された。中国では、酒は百薬の長といわれているが、特に紹興酒は体に良く、二〇種類を超えるアミノ酸を含有しているので、延年益寿の酒といわれている。
紹興酒の飲み方は、お燗をして飲むのがほとんどで、常温で飲むこともあるが、ロックで飲むことはない。生水の飲めない所なので、氷も衛生面から敬遠しているためだと思われる。
油分の多い中国料理にはピッタリの酒で、中国のナショナルゲストハウスの北京鈞魚台国賓館でも、国賓をもてなす酒は七〇年代までは茅台酒だったが、八〇年代末からは紹興酒古越龍山が指定酒となっている。
上海、北京、広東、四川のいわゆる四大中国料理のどれにも合って、紹興酒は広く愛飲されているが、しゃぶしゃぶや焼き肉料理でも愛飲されている。中国で、オン・テーブルされる形は、六四〇ミリリットルびんのまま出されるのが多い。しかし、最近はひょうたん型の陶器のかめや、一・六リットルの茶かめのまま提供されることも増えているようだ。
紹興のある有名中国料理店では、茶色のひょうたん型のつぼの酒を出していたが、斜めに傾いており、筆者は酒も飲まないうちから酔ったのかと思ったが、わざと底を工夫して、斜めにしたつぼに入っていた。ムードのせいか、その日の酒は特に味が良く感じられた。
日本のホテルオークラの中国料理「桃花林」のソムリエさんのお勧めの紹興酒の飲み方は、ピータンのスライスを肴にして飲めば最もうまく飲めるとのことである。試してみると、ピータンのまったりした味に紹興酒は確かによく合った。
紹興酒は、一九八五年のパリ国際ワインコンクール、同じ年にマドリッドのコンクール、八六年にもパリの国際食品コンクールで金賞を受賞して以来、数多くの金賞に輝いており、世界の名酒の一つである。
昔の中国では、女の子が生まれると、紹興酒を造って乾燥した地下蔵とか土中に埋めて、その女の子の嫁入りの時に掘り出して、来客に飲ませた。この酒のつぼを、花鳥の図で飾るようになって、これが花彫酒の語源となったのである。
現在の中国では、酒を地面に埋めて貯蔵することはない。醸造した紹興酒は、二四リットル入りの陶器のかめに入れて、粘土ともみ殻を混ぜたベレー帽状ので密封し、二~三ヵ月ふたを乾かしてから、コンクリート建ての四~五階ある貯蔵庫に入れて、輸出品は三年以上、国内物でも一年以上貯蔵させ熟成させてから出荷するのである。生まれた女の子のために酒を造って、嫁入りの時に飲むという話は、夢のある話であるが、今日の中国では、全くみられないのである。
貯蔵年数が長ければ長いほどおいしくなるのかという点では、単に長ければ良いという単純なものではない。やはり、本来の酒質の良いものを選んで、良い条件の場所で貯蔵すればおいしくなるのであるが、本来の酒質がそれほど良くない品を貯蔵しても、それなりにしか良くならないとのことである。一説によれば、貯蔵年数八~一二年程度が最もおいしく飲めるとのことである。先に述べたように、元の酒が良くなければ、貯蔵してもそれなりであるので、A社の五年酒よりもB社の一〇年酒が必ずしも良いとはならないのである。
また、中国では年号表示について公的な規制は全くなく、生産者が任意に表示できるのである。会社が設立されてから一〇年そこそこであるのに、二〇年酒と表示されている例も現実にはあるのである。要は、表示にとらわれずに良い銘柄を選ぶことが大事なのである。