トップインタビュー:南部家敷・葛巻治代表取締役社長

1997.03.03 122号 3面

‐‐東北地方の外食産業をリードする飲食チェーンとしてどのようなモットーをお持ちですか。

葛巻 東北地方、とりわけ岩手県内では外食企業のトップと自負しております。トップであるということは価格支配権を持っているということ。われわれのメニューが地域飲食の指標となっているわけです。

われわれが消費者から満足される商売をしていれば他店も追随する、そうすれば地域の外食全体も良くなる、と考えています。

‐‐低価格志向が叫ばれて久しい現状下、チェーンでは価格、品質の指標をどのように打ち出しているのですか。

葛巻 低価格志向もいろいろなとらえ方がありますが、飲食店にとって安易に価格を破壊することは間違いだと思います。

知っての通り労働集約型の飲食事業は極めて生産性が低い。高付加価値を付けて高単価とし荒利を上げて行くのが本来の目指すべき方向ではないでしょうか。もとより現在の低価格ニーズは安さを追い求めているわけではありません。値打ち感を志向しているのです。すなわち消費者からの納得を引き出す商品開発を先行させるべきです。

‐‐具体的にどのような商品開発が必要ですか。

葛巻 飽食の時代を過ごしてからの今後は、安全、安心、健康がキーワードとなるはず。無添加、無農薬、天然といった素材が今以上に存在感を増すでしょう。

それらを使うと価格は割高になるが、逆に高単価をつける好機にもなる。低価格路線をたどる飲食店が多いだけに、品質を理解させるアピールさえうまくいけば展開はし易いと思います。実をいうと、農業法人化(企業化)が認可されたら、当社で農園を作り素材作りから始める構想もあるのです。

‐‐今後の出店についてはどのような構想をお持ちですか。

葛巻 都市圏では飽きられ始めているFRも、地方ではまだ新鮮と受け止められています。われわれは“毛沢東出店”と銘打っていますが、そうしたドサ回り的な出店を続けて行く方針です。

私は東京に行ったときに「日本のロサンゼルスから来ました」といいます。それだけ東北はモータリゼーションが進んでいます。そうした地域では、通行量が多いイコール好立地、という公式が成り立ちません。これまでに培った勘だけが頼りですね。

ただし出店ポイントでひとついえることがあります。小売業態の激変に目を付けることです。ロードサイドにおけるショッピングセンター、ディスカウント店の開店ラッシュで客足の流れが激変しています。当然そうした流れをとらえた出店戦略が今後は必要となるでしょう。

昨今出店した宮城県の加賀野店は決して好立地とはいえません。しかし生協に隣接しているため日中のアイドルタイムに買い物客の来店客が多く、標準よりも二割増の売上げで展開しています。

その実績からも分かるように、これからは業種、業態を越えた異業種間の協調展開が活発化、予想だにしなかったローカル地域に一大商業地区が形成されることとなるでしょう。

‐‐メニュー戦略についてはいかがですか。

葛巻 ありとあらゆるメニューが出回っている状況下これといった奇策はありません。従来のアイテムを前述通りレベルアップさせるだけです。

それよりも楽しい食べ方を提案することが重要だと見ています。居酒屋でくつろぐファミリー層を最近よく目にしますが、これはメニューよりも少量多頻度のニーズが高まっているからです。

一般的に和食のイメージは定食にかたよっていますが、居酒屋の出し方のほうが本来の形だと思います。当チェーンでもそれと同様な提案を近いうちに打ち出す予定です。

‐‐その他、今後の展開について聞かせて下さい。

葛巻 当面の出店予定は宮城県と秋田県に一軒ずつ。いまは物件も安いし、高齢化社会を迎える今後は和食需要の増大も見込めるので多店舗化に拍車をかけたいのですが、ローカルの弱点でいかんせん人材が少ない。その分基礎をしっかり固め、これからのノウハウをじっくりと蓄積したいと思います。

また、究極の課題としては、エリア別に分社化し資本と経営を分離化する構想があります。グループ売上げ一〇〇〇億円、一〇〇人の社長、五〇〇人の取締役を有する外食企業に育てるのが目標です。

‐‐ありがとうございました。

葛巻治(くずまき・おさむ)・岩手県生まれ、四八歳。南部家敷チェーンの創始者である先代の父親、久八氏と二人三脚で南部家敷チェーンを東北一の外食企業に育てた。今年代表取締役社長に就任。東北地区の外食産業のリーダーとしてますます周囲から期待されている。

(文責・岡安)

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