飲食店成功の知恵(108)繁盛編 お客が感動するサービス(2)
ほんのちょっとしたことなのに、自分が大切にされていると感じたとき、お客は感動する。そこに接客サービスのツボがある。そこにお店とお客との心と心のやり取りがあるからだ。
では、そういうおもてなしの心を的確に表現するにはどうすればいいのか。どういうサービスをすれば、お客は感動してくれるのだろうか。今回は、このことを具体的に考えてみよう。
お客が感動するのは、予期していなかったサービスを受けたときである。ちなみに、ここで感動といっているのは、心が動かされるという意味で、そのサービスによってぐんと楽しくなったとか、より豊かな気分になれた、という満足感と考えていい。
さて、お客が予期していないサービスといっても、別に大げさに考える必要はない。予期していないというのは、常識的には期待することのないサービスということだ。それならば、まずお客はどういうサービスを妥当と思っているのか。そこを知ることが先決になる。
ひとくちにサービスといっても、いろいろなやり方があるが、ここで問題になるのはその「レベル」である。お客は特に意識しなくても、そのお店にふさわしいサービスを期待している。最低でもこれくらいのサービスは受けられるだろう、と思っている。そして、そのレベルのボーダーラインは、お客の利用動機と客単価で決まる。いわばお店とお客との暗黙の了解が出来上がっている。ゆえに常識的という。
たとえば、ファミリーレストランに入って客単価一万円以上のフランス料理店のサービスを期待する人はいないが、そういうフランス料理店でファミリーレストランと大差のないサービスをされたらどうか。普通の感覚のお客だったら、二度とそのお店を利用しないだろう。周りの人にも「ひどいお店だった」と話すだろう。
これが、お客の期待度の違いである。お客は、その利用動機と代金の対価として妥当なサービスを期待しているのだ。大事なのはここだ。普通のお客は過剰な期待はしていないのである。つまり、予期していないサービスとは、常識的なレベルの一歩上のサービスということができる。
では、どんなサービスが一歩上をゆくサービスになるのだろうか。分かりやすい例をいくつか挙げてみよう。
たとえば、高級店でもないのに店長がわざわざテーブルまであいさつに出向く。食事の途中でさりげなく「何か不都合はありませんか」などと声をかける。ほかの料理で汚れた取り皿をタイミング良く取り替える。あるいは、食後にすかさず熱いおしぼりやお茶(冷たい麦茶)を出す。
一歩上といっても、せいぜいこれだけのことでしかない。というより、ここで大事なのは何をしたかということではなく、おもてなしの心を実践しているかどうかということなのだ。
飲食店を利用するお客にとって一番大事なことは、楽しく豊かな時間を過ごすことである。料理やお酒がおいしいに越したことはないが、それ以上に大切なのは、楽しく豊かな気分になれるかどうかということだ。だからこそ、ちょっとした心遣いがお客の気分を盛り上げる。お店の心がお客の心に響くのである。
繰り返すが、店長のほんのひとことだけでも、お客の印象はがらりと変わる。思いがけないひとことによってお客は、自分が大切にされていることを実感できるからだ。お客を感動させるのはむずかしいことではない。おもてなしの心の原点を忘れなければ、だれにもできることなのである。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行