関西版:タケノコ料理専門店「筍亭」 静寂な自然の中で京料理楽しむ

1997.09.01 134号 17面

古都「京都」は今、新しいJR京都駅が誕生し、ふたたび活気に満ち溢れている。その活気は喧噪に近い活気ともいえるが、日本全国広しといえど一年を通じてタケノコ料理を提供する専門店として近年評判を高めている、京料理「筍亭(じゅんてい)」は、洛西の地(京都市西京区樫原鴫谷五〇番地、電話075・391・7191)の緑の静寂に囲まれた自然の中、都塵を払って仙境に浸りたいと希望する人々が引きも切らず、活気に満ちた繁盛店としてますますの人気を集めている。

映像や各種紙面で紹介される機会も増えているようだが、弊紙も縁あって取材の機会が生まれ盛夏(8月15日)の昼下がり初めて訪れた。

国道9号線の喧噪から離れ車で数分、こんもり盛り上がった竹薮を目指す。瓦葺きの純和風家屋が数棟顔を出し迎えてくれる。もうそこは数分前の喧噪とは絶離の別天地である。案内された静かなたたずまいの部屋からの眺めは、どの方角も自然がいっぱい。やがて現れた当主の西尾真孝社長は、汗を拭いながらの登場、「お客さんの立て込む時間は別にして、周辺を取り囲む自然と常に向き合い、お客様に喜んで頂ける環境美の構築にいそしんでおります」が第一声。

聞けば、どこまでが境界かわからぬほどの竹林を中心とした六〇〇〇坪にもおよぶ自然が「筍亭」の借景とか、「やっと正真正銘のタケノコ料理専門店といえるようになり、地元ばかりでなく遠隔地からも評判を聞きつけてご来店頂いていますが、そもそもの発端は父の時代にタケノコの生産者として大変な評価を頂いていましたが、食する人の直接の声が聞こえぬのが残念に思え、いわゆるタケノコのシーズンに知人を竹薮内に招いてタケノコ料理をふるまい「うまい!」という声に改めて自信を深めたということで、道楽ではなく、限られた人たちでなく、この素晴らしい“味”を広く一般の人にも伝えるべきだの声に応えて、自家生産のタケノコ料理の店を約五〇年前に構えました」

現当主の真孝社長は、広大な所有地を活用してゴルフ練習場の経営や農業を営んでいたが、二八年前、一念発起して本格的なタケノコ料理店を展開しようと、「おそまきながら」調理師専門学校で修業の日々を送った。そして、新たなる理想の実現に邁進の年月を重ねることとなったのだが、ローマの道は一日にしてならず、の例えどおり理想の姿に近づくまでに一〇年近い歳月が流れた。

その理想とは、自分の位置する地の産物(主としてタケノコ)を最良の料理にしつらえて、できうる限りの低価格で来店客に提供する、ということであり、旬の素材を生かした四季折々の京の味を提供するのはもとより、日本一と自負する自家生産のタケノコをシーズンだけでなく、一年を通じて味わって貰えるようにしたいと念じ続けてきた。これは、料理メニューの工夫に止まらず生産と消費のバランスが均衡して初めて可能とされることでもあり、まずは最良のタケノコありき、の理想を現実のものとするため努力した。常に土にまみれる日々が繁盛の原点となる。

こだわりは、タケノコだけに止まらず近隣の豆腐店とタッグマッチよろしく改良に改良を重ね、これも自慢の逸品と胸を張る「豆腐」をつくりあげ、独特の料理法による「竹なべ湯豆腐」は逸品中の逸品と評価されている。

味に自信あり、は疑うことのないところであるが、当主のもう一つの自負はほとんどのメニューの価格を約二〇年来据え置いたままでいることである。

他がまねしようにも出来ぬ快挙の秘密は、食材そのものを自家生産しているからであり、「父の代から人様に喜んで貰いたいとはじめた料理で、誠心誠意尽くすことを第一義として取り組んできた。結果は後でついてくるが自然の摂理でお陰様で好循環、共鳴者も幅広く生まれ、食器のほとんども私のオリジナル陶磁器です。食材・食器ばかりか四囲の借景もオリジナル」の言葉どおり、羨ましい限りの世界でもある。

竹の筒を鍋に仕立てた独特の風雅に見られる工夫の数々も「より一層喜んでもらいたい」の念がうみだしたもの、この夏人気の「かぐや姫御膳」(五〇〇〇円)に加えて秋(10月・11月のみ)には紅葉をイメージした「時雨御膳」(五〇〇〇円)が出番を待っている。四季折々の花も添えながら……

<おしながき>

▽竹なべ会席(四季):松一万五〇〇〇円、竹一万二〇〇〇円、梅一万円、桜八〇〇〇円▽筍亭弁当:三〇〇〇円より▽筍コース:一万一〇〇〇円~二万円▽鍋もの料理(冬季):寄なべ六〇〇〇円、かにちり六〇〇〇円、牛しゃぶしゃぶ六五〇〇円、沖ちり七五〇〇円、てっちり時価(すべて、付きだし、造り、ぞうすい、香の物付)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら