関西版:シリーズ・オイシクする人 酒の狩人「白菊屋」

1997.11.03 139号 16面

“酒の狩人”ガ求メル、スゴイ、オ酒トハ……!? ソノ名、有名無名ヲ問ワズ、常ニ、オ酒造リノ生業ヲ強ク誇リナガラモ、タダ単ニ、オ酒ノ事ノミニトドマラズ、広ク日本ノ伝統・文化ニオイテモ、高イ見識ヲ持ッテオラレルオ蔵サンノモト、自然ノ営ミニ常ニ畏敬ノ念ヲ持チ、蔵人サン達ヨリ絶大ノ尊敬ト信頼ヲ得、マズ第一ニ最ットモ清潔ヲ重ンジ、技量抜群ニシテ、スゴイオ酒トナル事ニ大変喜ビトシテオラレルオ百姓サンノオ米ト、神々シイ程ニ自然ノ恵ヲタップリト含ンダ素晴ラシイオ米トヲ用イテ、一糸乱レズ統率シ、オ酒造リノ出来ル杜氏サンヨリ生レ出ルオ酒ノ事デハ……大阪府高槻市の団地内にある“酒の狩人”を呼称する酒販店・白菊屋の店主松尾實さんの「酒」に対する思い入れの一端である。

担税商品として、致酔飲料として、その扱いは免許制度の下に保護され、多くの規制で聖域化されてきた酒販業界であるが、内外からの要望に押され、規制緩和の流れとなり、業界の様相は急激な変化を見せている。中でも、一国一城の主の意識でほとんどが家業的形態で推移してきた酒販店(街の酒屋さん)は、ディスカウント店の出現や組織小売業(CVS、スーパー、百貨店など)の攻勢の前に、成す術もなく後退を強いられ転廃業が相次いでいる。

「白菊屋」もご他聞に洩れず、周辺に進出したディスカウント店の安値競合に顧客を奪われ、酒販店経営の意欲も自ずと薄れてきた。また、松尾夫妻には子供が無く後顧の憂いもないので環境悪の酒販業から撤退しての転業を模索した。多くの知人・友人の意見や助言を得たが、その結果、決断したのは継続であった。

ただし、意識を一新しての再スタートをした。それは価格競合から脱却した豊かさ溢れる酒販店作りだった。いわゆる「専業店化」であり、他店との差別化である。

酒そのものについて猛烈に勉強し直すとともに、冒頭の理念にかなう銘酒を集める日々が続いた。

決断してから四年、今、同店から発するメッセージは「私どもは高槻市といっても、市の中心外の住宅地にあり、“酒専門店”として地酒の名門銘醸酒を中心に、こだわりの本格焼酎と泡盛やベルギービールなど輸入ビール、国産地ビールのご案内にと……少しでも楽しい“酒文化の伝達者”になれればの願いで、日々、店造りに励んでおります。どうぞ、お近くにお越しの節には、ぜひお気軽にお立ち寄り下さいますようこころまちにしております」。

そして語る「専業店化を目指した当初は、やることなすことすべてが未知・未経験の領域とあり、ずいぶん苦労もしました。いろいろと学びながら各蔵元の理解も得、取引先卸の協力、先行する専門店の指導も得て、やっと一通りの姿になりつつあります。いまは何とか無事、初等科を卒業といったところです」。

しかし店内はところ狭しとばかりに全国の銘酒が鎮座しており、“まぼろしの…”垂涎の酒も並べられている。

趣味を生かした「焼物」も店内の雰囲気を一層盛り立てており、こだわり商品のいずれも、店主と蔵元やメーカーの気概が一体となったメッセージが価格表示とともに貼付されている。

そして、何よりも他店との違いは、いわゆるレギュラー酒の姿が見あたらないことである。店主曰く、「あらゆる業態店と競合するレギュラー酒(ナショナルブランド)は、私どものような規模、加えて低価格化施策を採らない者にとってはいかんともしがたく、今や、積極的に撤退し! 功罪相半ばするも、今後もより一層、取捨選択の意志表示を鮮明にし、個性化に努め、いったん、選んだ道、自らを“造り人の心”により近くし、酒通の皆様に的確にご案内の出来る店造りを心掛けてまいります」。

最高時の年商一億八〇〇〇万円が一億円まで落ち込んだが、面目一新してからは上昇機運を取り戻し、一億四〇〇〇万円まで回復しているという。短時日で急速の転換となったが、ここに到るまでさまざまな感動も体験した。

それは「香露」(熊本県)をはじめとする銘醸地酒蔵元(一六社)との直取引であり、幻の焼酎「百年の孤独」(宮崎県)の大阪地区特約第一号店の誇りである。

一酒販店を超えた信頼は、言うまでもなく店主の情熱と人格がもたらしたものであり、同店のためにのみ造られ命名された「拍樹子(はくじゅし)」(奈良県・長龍酒造)、「阿武の峯(あぶのみね)」(大阪府・国乃長酒造)も大いに誇りとするところである。

今後の期待は、子供のいない夫妻が店のホープと可愛がっている藤本一路さんの活躍振りで、次なる個性化の柱と店主が願うビール部門を担当、ベルギービールを中心に研鑽を積んでおり、フィールドを拡大しながら色彩はますます多彩になっていきそうである。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら