10年後を見据えた飲食店の課題 居酒屋=ボーダレス時代の到来
居酒屋という業態は古くからわが国にあった商売だが、時代はまさに居酒屋の時代に入っている。なぜならば、このストレスの多い社会で今後ますますコミュニケーションが大切になってくるからだ。
それはお互いが同じ空間に同時的にいて、同じ話題を中心に同じ料理をつつくという連帯が感情としての連帯感につながり、その連帯感が心を和らげるのだ、という説明など必要のない楽しさを提供できるのが、まさに居酒屋。
その証拠に、新しいかたちの居酒屋が郊外にポツポツでき始めている。郊外型居酒屋と呼んでいるが、和食が多くまた食事性が強いので、和食処居酒屋、居食屋、うまいもん処、海鮮茶屋などいろいろな言い方をしている。従来の居酒屋のイメージでは説明できないところがあるものだから、いろいろな言い方がされるのだろう。
この背景には人々の意識の変化がある。公的社会(いわゆる会社人間)から私的社会(自分の好みを優先する)に変わりつつある。普段着の生活を大切にする考え方、その考え方を回りの人々も尊重するという社会ができつつある。
そういう人たちが選ぶ飲食店に共通するものとして、次のようなものが挙げられる。
★気軽に行ける店。気軽さとは、まず価格であり、自分の生活行動範囲のなかにある立地。
★日常食での「ごちそう」がある店。普段食べているものがおいしい。
★店内は、明るく、清潔でくつろげる空間になっている。
★きびきびと動く活気あるサービスであり、気配りもあり感じがいい店。
今の居酒屋の現状を分析し、今後の居酒屋の方向性を探ってみた。
◆二極分化になっている。二極分化には規模の二極分化がある。大型店舗(一〇〇席以上)と小型店舗(四〇~五〇席)。大型店舗は企業が取り組み、小型店舗はパパママストアとなっている。
会社組繊で居酒屋を運営しようと思えば、大型店舗にならざるをえない。年中無休で店を回せば、社員は三~四人は必要となる。その人たちの給料が月に一三〇万円はかかる。
パート・アルバイトも一日平均六二時間として月に二一二〇時間で、金額にして約一七〇万円になり、人件費合計で三〇〇万円必要となる。
三〇〇万円で、人件費比率二五%になるようにするには、一二〇〇万円の月商が必要。
例として、標準売上げ一二五〇万円、店舗面積八五坪、客席一一八席の店舗効率を計算したところ、別表㊦のようになった。
また、客単価の二極分化も起こっている(別図参照)。
◆大きなチェーンストアの一店舗当たりの売上げの伸びが鈍化している(別表㊤参照)。
企業の真の実力を知るには、既存店の昨年対比を見ることで分かるが、大手はいずれもあまり伸ばしていない。このことをどう見るのか。
(1)コンセプト疲労に陥っているのでないか(2)店舗運営能力の低下、つまりその企業の人間力が薄まっているのではないか(3)同じような店舗が増えた結果の競争激化――などが考えられる。
◆居酒屋のなじみの店を持っている人は、一〇人に六人の割合であり、店を選ぶ理由は次の通り。
1位=家庭・職場の近く(立地優先)/2位=お値打ちである(価格優先)/3位=商品の味が良い(商品力優先)/4位=店の雰囲気が良い/5位=提供が早い/6位=素材が新鮮である/7位=接客サービスが良い/8位=定食がある/9位=季節感がある/10位=お洒が豊富である
◆人気のあるメニューはほとんどの居酒屋に共通する(二七店舗のデータから)。
1位=焼き鳥/2位=鳥の唐揚げ/3位=サラダ/4位=刺身/5位=ポテト/6位=肉じゃが/7位=豆腐/8位=ソーセージ/9位=ホッケ/10位=焼きそば
◆郊外居酒屋は今後ますます伸びる。
これらの店はお酒を飲む場所だけではなく、どちらかというと料理を楽しむ場所になっている。その結果、幅広い顧客層と幅広い利用動機に対応できている。
繁盛させるためには次のようなポイントを押さえる必要がある。
(1)メーン料理を作る。刺身にするのか、焼き鳥にするのか、揚げ物にするのか。
(2)子供客にも女性客にも魅力的な、デザート類、ソフトドリンクを充実させる.
(3)食事物(ご飯類や麺類)においしく特徴のあるメニューを用意する。
つまりファミリーが満足できる商品に徹底的にこだわり、日常的な宴会に使えるような料理やセットメニューを用意すれば、売上げアップにつながる。
(参考店=豊橋「かまど」「八丁堀」、岡山「楽座」、平塚「海彦」)
◆市街地型居酒屋は他店との「差別化」をしなければ生き残れない。
まず「名物メニュー」が必要。いったい何を売っているのかわからない店にお客様はなかなか釆てくれない。次にその名物メニューをごちそうとしていかにアピールするかがポイント。
売り物の商品が、価値の見いだせないものでは仕方がない。その名物メニューがわざわざ行っても食べたいと思えなくてはならない。そのためにはおいしさ、時代性、希少性などをアピールしなければならない。
繁盛店づくりの三大要素としては(1)料理は「おいしさ」の追求(2)店舗は「らしさ」の追求(3)サービスは「豊かな気分提供」の追求。
(参考店=豊橋「げん屋」「つくね屋本舗」、新宿「膳や」西口店、福山「海彦太郎」)
◆居酒屋という業態に、あらゆる業種業態が参入してくる。まさにボーダーレスの時代になる。
お客様のニーズが、満腹が目的ではなく「より楽しく」食事をしたいとなると「カジュアルな居酒屋みたいな業態」になってしまう。
洋風レストラン、中華レストラン、和風レストランなどは、ディナーは客単価二五〇〇円以上は当然欲しくなる。一皿当たりは安くて、自分の好きなものを選べる楽しさがあるようにすれば、この客単価が取れるから魅力的だ。
★洋風レストラン=堅苦しくない雰囲気があり、気軽に行ける店で、簡単なパーティーもでき、一方でデートにも使える店づくりであること。必ずしもワインにこだわる必要はなく、日本人になじみのあるビールをおいしく提供することの方が大切。
(参考店=名古屋「マリノ」尾張旭、「壁の壁」本店)
★中華レストラン=中華料理は本来、居酒屋的な食べ方をする。大皿で出てきて、皆でつつきあいながら食べるというやり方は、まさに居酒屋だ。単品の価格と居酒屋的な使い勝手を追求した商品構成にすれば、十分成立する。
★和風レストラン=店の都合の、押しつけがましいセット料理にお客様はソッポを向き出している。季節感のある料理を食べたいというお客様の要望にこたえなければならない。それに対応するにはグランドメニューのアイテム数を絞り込み、季節感のある「差し込みメニュー」を充実させる。
(参考店=小山「ごほう」小山店)
今時のお客様は、「選択のプロ」。これだけたくさんの商品に囲まれている生活をしているので、いつも選ぶことに慣れている。この選ぶという行為は、選ぶ人が何らかの判断基準を持たなければならない。それが今時のお客様のニーズで、(1)本物の追求(2)クロスオーバー感覚(3)健康志向、の三つである。