10年後に備える飲食店の課題 「店舗の形態」

1998.01.19 144号 6面

(1)メニュー開発

バブルがはじけてから社用接待が無くなり、個人のファミリー客が中心になりつつある。また、カジュアルフライデーの定着によりくつろいだサービスやメニュー、店舗の雰囲気が必要不可欠になる。不景気の中わざわざ飲食店に足を運ぶのは、家では満足できない楽しさと食事を期待するからだろう。

今の消費者は料理の鉄人などの料理番組で料理を覚えているからごまかしは利かないし、家の料理に負けるという可能性すらある。家の料理で絶対にできないのは料理の種類とデザートだろう。お酒も同じだ。いろいろ異なる酒やワインを楽しめるのはレストランだからこそであり、常に珍しいすばらしい味の酒類を取りそろえるべきだ。

家でおいしい料理を作るのは可能だが、おいしい酒から、オードブル、メーンディッシュ、デザートまで作る手間とスペース、時間が無いからだ。そういう意味では家でできない、楽しい料理を目指す必要があり、消費者に負けないで勉強をしなくてはならない。

これからのトレンドをしっかりとらえたメニュー開発が必要だ。メニュー開発に当たって顧客の志向の変化を正確にとらえているのは、米国ホテルチェーンのHYATTで、日本でも東京パークハイアットのニューヨークグリル、大阪ハイアットリージェンシーのイタリアンレストランのバジリコ、福岡キャナルシティのグランドハイアットのフードライブなどすべて異なるコンセプトを掲げ大成功している。同社のノウハウは世界のハイアットグループのトレンドを正確にとらえたメニュー開発の手法だ。大阪グランドハイアットの総調理長のJ.Paul Snow氏にハイアットが重視している現在のトレンドを教えていただいたので見てみよう(カッコ内は筆者が説明を加えたもの)。

◆大阪グランドハイアットのメニュー開発

★The best cup of coffee(おいしい香りの高いコーヒー。現在のトレンドはイタリアンのエスプレッソ、カプチーノ。一杯ずつその場で入れる香りの高い新鮮なコーヒーが大事)

★Freshly brewed tea(入れ立ての新鮮なバラエティーのある世界各地の紅茶)

★Freshly baked bread(新鮮な焼きたてのパン)

★Fresh sandwiches using fresh bread(新鮮な焼きたてパンを使用した出来立てのサンドイッチ)

★Perfectly ripe fruit(完熟のフルーツ)

★Fresh vegetables(取れたての新鮮な野菜)

★Vegetarian menus,low fat and healthy(菜食主義者、自然食志向のメニュー、健康的な低脂肪のメニュー)

★Fresh fish(取れたての新鮮な魚)

★Fantastic desserts(バラエティーのある素晴らしいデザート)

★Selection of ice creams(多種のアイスクリーム)

★Separate restaurant identities(店舗ごとに個性のある店づくり)

★Authentic ethnic cuisine(伝統的な民族料理)

★Freshly squeezed juices(絞り立ての新鮮なジュース)

★Mineral waters(ミネラルウオーター)

★Variety of beers(いろいろなビールの取りそろえ、特に地ビールなどのダーク系のビール)

★Wine by the glass(ボトルワインを一本取らなくても、おいしいワインを気楽にグラスで注文できる)

★Well presented beverages(見た目に美しい飲み物のプレゼンテーションテクニック)

★Freshly grown herbs(新鮮なハーブ)

★Best preparation methods(最高の調理手法の採用)

★Spotlessly clean surroundings(店内はぴかぴかにきれいに保たれていること)

(2)店舗の雰囲気とサービス

非日常的な雰囲気を求めて客は外食をするのだから、家ではできないサービス、雰囲気を実現する必要がある。サービスをよくしろというと、見かけだけの心のこもっていない形式だけにこだわるようになる。日本のサービスの心得はお茶から来ている。お茶の心得に一期一会のサービスがある。日本のサービスというとこの言葉が連想させられる。

一期一会というのは、戦国時代の人たちはいつ戦などで命を落とすかわからない無情の世界にいた。そのような人たちをもてなすのに、もう二度とあえないかもしれないという緊迫した心のこもったもてなしが必要だったのだ。しかし、その一期一会から心を失った、形だけのサービスは慇懃無礼となってしまっている。

もち論、接待をするような料亭などの場では一期一会のサービスは必要不可欠かもしれないが、個人で友人、家族と気楽に食べるにはもっと気楽な、笑顔のある自然なサービスの方が望まれる時代となったのだ。サービスも時代とともに異なるのだということを忘れてはいけない。

先日、築地にある超有名料亭の銀座支店で食事をした。出てくるメニューを聞いてもサービスする人は全く答えられず、いちいち板前に聞かなくてはならない状態だった。その板前も「この素人が」という客を馬鹿にした態度で応える状態ですっかり気分を害してしまった。

最近、大人気の石鍋さんのクイーンアリスや熊谷喜八さんのキハチ、京都懐石割烹菊の井などは本格的な料理を出すが、客へのメニューの説明を誰に対しても丁寧にきちんと行っている。初めての客でも恥ずかしくさせないという気配りが雰囲気の良い店づくりに大きな効果を出している。

<最後に>

実は前記の具体的な問題点に対する取り組みは、景気が絶好調でまだ若年労働人口が十分にいる米国ですでに着々と採用されている。これらの対策に今から真剣に取り組んでいかないと一〇年後にはさらに米国から遅れるという深刻な問題を引き起こすだろう。

昨年から引き続き日本の景気が最悪な状態なのは、将来を正確に予測しそれに対して必要な対策を積極的に行っていなかったからだ。だれかが何とかしてくれるだろうという甘い考えではなく、自らが具体的に一〇年後にどうあるべきか、具体的な対策を練るべきだろう。

((有)清晃代表取締役 王利彰)

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