注目の外食ベンチャー おむすび専門店「権米衛」 15坪で日商60万円

1998.02.02 145号 1面

急速な時代変化から生まれる飲食ニーズ。規制のない飲食業界では、そのニーズをいち早くとらえたベンチャー企業が、瞬く間に多店舗化に突進、業界の一勢力に飛躍する。外食レストラン新聞は、今後こうした将来性有望な外食ベンチャーを毎号掲載する。一回目は、商社マン、プロボクサーを経て業界入りした変わり種、岩井健次氏((株)イワイ代表取締役)の手がけるおむすび専門店「権米衛」を紹介する。

「権米衛」はテークアウト主体のおむすび専門店。サンドイッチチェーン「サブウェイ」のフランチャイジーである(株)イワイが、事業多角化の一環として展開するものだが、同社代表の岩井健次氏は「将来に向けた主力事業候補の本命」と期待している。

平成8年7月、東京ウォーターフロントの最前線お台場の大型商業施設「デックス東京ビーチ」に出店したのが第一号店。これは同社がFC加盟するサンドイッチチェーン「サブウェイ」との複合店でオープンした。

平成9年10月、東京・新宿御苑にオープンした二号店も複合店舗で、こちらは受託経営のカレーショップとの併設。出店はまだ二店舗だが、物件が確保できれば随時チェーン化を図っていく方針で、近い将来にはFC展開も意図している。

岩井社長がおにぎりに着目したのは、(1)日本の米食文化の原点であり本質的に日本人の嗜好に合っている、(2)高度の料理技術を必要とせずパートの従業員でも調理が可能、(3)テークアウト主体であればミニ規模で店舗が出せる、などの理由から。

展開に当たっては「サブウェイ」のチェーン化で育んだマネジメントやオペレーションシステムのノウハウをいかんなく発揮している。

「サブウェイ」のサンドイッチはパンと野菜、ハムなどの具を一体化させた、いわば“アセンブリ商品”。おむすびはデリケートな炊飯というプロセスが伴うが、これを除けばご飯の中にシャケや梅、コンブなどの具を入れる簡単調理で、サンドイッチ同様に素材をコンビネートさせるアセンブリ商品なのである。

おむすびは時間を区切れば作り溜めも効く、極めて生産性の高い商品。また、この商品はアツアツのものより、少し時間を置いた方がおいしい。「権米衛」は基本的には三時間をホールディングタイムとして、作り置きのケース販売を行っている。

だから、客は好みのものを待たずに買い求めることができる。ドーナツの作り置きに似た“和製ファストフード”という商品特性になり、商品単価も一一〇円から一七〇円とロープライスなのである。定番商品は別掲のとおり、シャケ、梅、おかかなど一六品目。

揚げ物、煮物、コロッケ、サラダ、みそ汁、漬物などの惣菜も提供し、客単価は五〇〇円前後である。

売上げはお台場の場合は、いわば観光・レジャーゾーンという立地なので、シーズンオフの冬場は客数が落ち込むが、平均的には平日で二〇万円、土・日で六〇万円と三倍にハネ上がる。

素材は高品質にこだわるので荒利は六〇%にとどまるが、人件コストがかからない分、収益性は一五%前後と非常に高い。

二号店目の新宿御苑店は、二坪程度の規模しかないが、それでもオープン三ヵ月で日商五万円の実績。坪効率二万五〇〇〇円。これを四〇%に引上げるのが当面の目標だが、「固定客が付いてきているので軽くクリアできる数字」(岩井社長)と判断している。

岩井社長は中肉中背のガッチリした体格。見掛けは地味だがエネルギッシュな雰囲気を感じさせる。会社を設立して今年で八年目を迎える。前述「権米衛」二店舗のほか、「サブウェイ」四店舗、受託経営のカレーショップ「CALAZA」一店、飲食以外にLPGスタンド三店舗を展開。また中国上海市に合弁会社を設立しステンレス鋼材の貿易事業にも乗り出している。

商社出身のベンチャー企業というだけあって業容は広く、すでにミニ商社という趣があるが、本命は「権米衛」の展開にある。

それだけに、できる限り自らが現場の陣頭に立ち、従業員のヤル気を喚起しながら店舗運営のノウハウを着実に積み重ねている。結果として会社設立七年目で年商五億円の地歩を築いている。

だが、岩井社長はこの数字には不満だ。業容を広げず企業エネルギーを集中していれば、もう少し業績は伸びていたという反省があるからだ。つまり、“ミニ商社”化したことで組織が保守化し、マネジメントが分散したと反省しているのだ。

「力みすぎて前に進むことばかりを考えていたんです。私は本来が一本気で、思ったことをストレートに突き進んでいく質ですから、事業意欲にとらわれて現場からも遠ざかっていた。足下を見ず、前に行くことだけで後は人任せという感じです。業績にも影響が出始めてきた。これではいけないと反省しています」。自己を常に省み、前向きに仕切り直せれば立派だ。有言実行、岩井社長は最近は自らが店頭に立って、客の呼び込みセールもおこなっている。結果的に企業エネルギーを分散させることになっているLPG販売も鋼材の輸出入業も、全社的にみれば大したウエートではない。岩井社長自身も発展性のあるビジネスとは考えていない。

現時点ですでに飲食分野は七、八割のウエートを占める。今後は内部を固めながら、チャンスの多い飲食ビジネスと取り組んでいく方針だ。

岩井健次(いわい・けんじ)/昭和36年、大阪府生まれ。早稲田大学法学部卒業後、住友商事入社。平成2年、同社退社後、プロボクサー(ウエルター級)に転身。平成3年、(株)イワイを設立し、サンドイッチチェーン「サブウェイ」にFC加盟。同店をベースにおむすび専門店「権米衛」の展開に乗り出す。

「権米衛」のおむすびアイテムは、のりたま(一一〇円)、みそ(一二〇円)、梅しそ(一二〇円)、おかか(一二〇円)、ツナ(一二〇円)、まぜこんぶ(一三〇円)、山菜(一三〇円)、うめ(一三〇円)、とりそぼろ(一三〇円)、さけ(一五〇円)、たらこ(一五〇円)、銀だら(一五〇円)、焼肉(一五〇円)、しらすバター(一五〇円)、納豆(一五〇円)、高菜(一七〇円)の定番一六種類。売れ筋はシャケ、たらこ、うめ、まぜこんぶ、高菜。各一〇~一五%でそれらで全体の七〇%に達する。

サイドアイテムは、おかず惣菜(三〇〇円)、漬物(一五〇円)、サラダ(一五〇円)、コロッケ(一〇〇円)、みそ汁(一五〇円)、ゆで玉子(五〇円)など。

素材の仕入れは産地直販の有機、低農薬素材にこだわる。コメは新潟コシヒカリ、山形ササニシキ。梅は紀州南高産。海苔は有明産高級海苔。

炊飯はササニシキ七割、コシヒカリ三割、清浄水を合わせ、自動精米「こめつき三太」を使用する。

◆店舗データ

所在地/東京都港区台場一-六-一、デックス東京ビーチ一階、電話03・3500・5016/開店=平成8年7月/店舗坪・席数=一五坪・八席/営業時間=午前10時~午後10時、無休/客層=地域来街者、周辺のオフィスワーカー/客単価=五〇〇円/月商=六〇〇万円以上/原価率=三〇~三五%/従業員数=ピーク時三~四人(正社員一人)、アイドルタイム二人/今後の展開/「権米衛」は先行きFC化へ。店舗面積二~三坪(テークアウトのみ)、月商三〇〇~五〇〇万円、立地条件はビジネス立地、商店街、繁華街、その他。

◆企業メモ

(株)イワイ/代表取締役社長=岩井健次/会社設立=平成3年3月/資本金=一〇〇〇万円/本部所在地=東京都品川区北品川五-六-二一、電話03・3449・4471/事業内容=サンドイッチチェーン「サブウェイ」(四店)、おむすび専門店「権米衛」(二店)、カレーショップ「CALAZA」、LPGスタンド経営、ステンレス鋼材輸出入業/社員数=二〇人/年商=五億円/決算期=3月

◆取材手帳

かつてはコメ離れということもあったが、今はそういうことはない。昼時には会社勤めの若い女性が、コンビニや専門店から弁当を買っていく。どこも列をなす盛況ぶりだ。おいしいコメ、バリエーションに富んだおかずであれば、このニーズは絶大なのだ。

米飯はヘルシーで、美容にもいいとの認識もある。女性たちが弁当、おにぎりなどに関心を持つのも、こういったことも大きな要素になっている。やはり、日本人の食文化は米飯が基本だ。嗜好、生活が洋風化したといってもパン、パスタ類が飲食ビジネスを席巻するというはずもない。(株)イワイのおむすびビジネスはこの視点からスタートしている。

「コメは日本人の食文化の原点、将来ともに強いニーズがある」と岩井社長は強調する。まだお台場と新宿御苑店の二店舗の出店だが、先行きFC展開も考えている。店舗規模二~三坪のテークアウト業態。現在、二店舗ともに好調な実績を上げているが、しかし、店舗展開は今年いっぱいは不調のサブウェイなど内部固めを先行させる方針なので、権米衛の出店は明年からになるとしている。

攻め一本やりできた飲食ベンチャーが一度立ち止まって内部を点検強化するというわけだが、これからの再チャレンジに期待したい。

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