注目の外食ベンチャー いけす料理「磯太郎」 業態の“穴場”狙い開業
いけす料理は街中でよく見かける業態で最近珍しくないが、磯太郎フーズ(本社=東京・葛飾)はこの業態をベースにして宴会対応の大型和食レストランの多店舗化に取り組んでいる。しかし、この業態は生き物を扱う素材料理が売りだけに、管理がデリケートで高度な運営とマネージメントが要求される。いくつかの課題もある。現在、奥戸、駒込、青戸に三店舗を展開中だが、この3月内には千葉・北松戸に魚料理とすしを組み合わせた特大規模(店舗面積三〇〇坪)の四店目をオープンし、将来の事業発展に向けて課題をクリアしていく方針。
いけす料理磯太郎は東京下町をテリトリーとするエネルギースーパー「たじま」が事業母体で、得意の鮮魚事業を基盤にした和食料理のレストランビジネスだ。たじまは創業二〇年の中堅食品スーパーで、現在、東京・葛飾(奥戸)を本拠地として、墨田、江戸川、荒川、北の各区を勢力地盤に一五店舗を展開する。
年商一五〇億円。昨年3月期は前年比一〇%もの売上げ増をみせた優良企業で、不況風に関係なく消費マインドをとらえたきめ細かな販売戦略で業績を伸ばし続けている。先行き株の上場も予定しており、今年度は大型店三店舗を出店する計画で、これによって売上げを一挙に倍の年商三〇〇億円に引上げる事業プランを策定している。
いけす料理への参入は、本業の鮮魚販売の実績が生かせること、外食産業界は競合著しいが、活魚を素材にした割烹料理ならビジネスチャンスがあるという考えによる。
「ファミリーレストランみたいなものか焼き肉レストランか、それとも居酒屋かといろいろ研究したんですが、こういった業態はすでに出そろっており、新たに参入する余地はないと判断したのです。しかし、活魚を使った割烹料理なら目立ったチェーン展開もないので、現業の鮮魚販売の実績を加味して付加価値を出していけば、新たに市場を切り開いていけるチャンスがあるのではないか、それでいけす料理の出店を決めたのです」(たじま本部)
この第一号店は平成2年8月、本拠地の葛飾区奥戸にオープンした。道路沿いのビルインタイプの店で、店舗面積(ワンフロア)一〇〇坪、客席数八七席。現在は別掲のとおり駒込、青戸店と合わせて三店舗を展開するが、青戸店(海鮮居酒屋磯じまん)はいけす料理の業態ではない。刺身料理を主体に煮物、揚げ物、焼き物(単品価格四〇〇~五〇〇円、宴会コース料理二五〇〇~三〇〇〇円)をラインアップした居酒屋である。
客層は中高年サラリーマン層を主体に、若いカップルなどだが、ここに来て売上げがダウンしてきているので、店舗のパワーアップ(活性化)が望まれている。本来の売上げベースは月商一二〇〇万円だが、二割近くダウンの一〇〇〇万円。
「トータル的にいえば店舗力が落ちているということです。抜本的な対策としてはQSCを徹底していくこと。それからメニューの見直しです。一つのアイデアとしては生産性の高い大皿料理、女性客にフィットするメニューなどの導入を考えています。全体的に見ても本部組織の問題や人材の育成、従業員のヤル気、店舗の運営システムなどクリアすべき課題は多いですが、この店は最終的には月商一五〇〇万円の力は発揮できるとみていますので、それに向かってパワーアップしていきたいと思います」(磯太郎フーズ千葉利彦社長)
いけす料理磯太郎は奥戸店が月商一六〇〇万円、駒込店が同二八〇〇万円のレベルにあり、売上げは対前年比四%の伸びで好調な推移をみせている。
しかし、この業態は素材が生き物であるだけに管理が難しく、一般的な日本料理店と比べれば生産性や収益性は劣る。物理的にはいけす(水槽)を張るために、店舗の営業面積を削らなければならないこと、魚介類の鮮度保持のために、水質、水温などいけす管理に神経を使い、コストもかかる。
基本は先入れ、先出しを厳守して、鮮度の高いうちに材料を使い切るということにあるが、このためには毎日いけすをチェックし、魚を吟味することが大きなポイントになってくる。
「結局は素材をどう料理するかです。店長と料理人がせめぎ合って、材料をムダにしない工夫、生きのいいうちに使い切ること。これは素材を管理する意識にもかかってくることです」(磯太郎フーズ代表取締役社長千葉利彦氏)
一、二階合わせ二四〇坪の駒込店は一階にいけすをレイアウトしているが、フロアの三割前後のスペースを占めている。一基三tのいけすが三基すえられており、伊豆から運んできた海水の中にタイ、ヒラメ、ハマチ、アジ、ウマズラ、カワハギ、イカ、カニ、サザエ、アワビ、ロブスターなどがストックされている。
これらはほとんどが養殖もので、天然ものは一部季節の魚介類に限られる。天然ものは質は高くなるが、水揚げ後の保存管理の難しさ、漁の出来、不出来、それによる価格の変動で、仕入れコストが一定しない。
この点、養殖ものは仕入れもコストも安定しているほかポーション(規格)コントロールも容易だ。
問題は天然ものにせよ、養殖ものにせよ、鮮度をどうキープしていくかだ。水温によって管理が異なってくるので、魚種によってのストックが必要で、一括して同じ水槽に入れておくというわけにはいかない。
「とくにイカはデリケートなので、単独にストックする必要がある。この海水温度は一六~一七度C。カニ、貝類もほかの魚と区別してストックする必要がある。水温はカニ五度C以下、貝類は一四度C。タイ、ヒラメ、ハマチなどは一六~一七度C、これは同じ水槽でストックしてもいいという具合です」(千葉社長)
水質のこともある。水は天然の海水だが、魚も新陳代謝しているので、放置しておけば自己汚染したり病原菌に感染したりする。
海水は伊豆から運んでくるが、一ヵ月から三ヵ月の割合で取り替える。水は一t当たり一万円のコスト。駒込店はトータルで九tの海水を使用しているので、すべて取り替えれば、九万円を要することになる。
いけす料理は素材のディスプレー効果があってエキサイティングだが、運営面では神経を使い、コストがかかるということだ。
今年1月、スーパーたじまから独立する形で、(有)磯太郎フーズを設立した。社長には正式に千葉利彦氏が就任した。既存三店舗は磯太郎フーズが吸収する形になるが、この3月にオープン予定の北松戸店は、新会社における初仕事になる。北松戸店はビルイン一、二階和風造りで、気軽さと高級感の両面をもつ運営体制を目指している。対象ターゲットは宴会客からファミリー客まで広角度。店舗面積約三〇〇坪、客席数二二〇席の大型店だが、いけすは導入しない。
魚介類と活イカ、すしメニューをラインアップした新業態で、店名も「さかな・活いか・うまい寿し 磯太郎」とネーミングしている。設定客単価三五〇〇~四〇〇〇円。初年度年商三億円を目標にしている。思惑どおりに集客力を発揮するかどうか、オープンが待たれるところだが、この後の店舗展開は北松戸店の実績と本部組織づくりの結果をみて具体化する。
「第一ステップとして、店全体で年商一〇億円を目標にしているが、この先は居酒屋、回転ずし、焼き肉などとの複合レストランも、可能性があるのではないかと考える。しかし、これも人材が育たなくては実現できない話です」(千葉社長)
どうやら、千葉社長の頭の中はいけす料理は奥戸、駒込の二店どまりで、今後においては“脱いけす料理”を意図しているようだ。
◆(有)磯太郎フーズ/所在地=東京都葛飾区奥戸三-一〇-六、電話03・5698・9400/創業=平成2年8月(奥戸店出店)/会社設立=平成10年1月/資本金=三〇〇万円/代表取締役社長=千葉利彦/目標=北松戸店のオープンにより年商一〇億円体制へ/課題=本部組織の強化、人材の育成。とくに企業理念を理解する料理人、店長などスペシャリストの育成(人間性と技術、知識のバランス)/計画=“脱いけす料理”で、居酒屋、回転ずし、焼き肉など複合タイプの和食レストランの展開。
◇宴会Aコース(六〇〇〇円)構成比二〇%◇法事会席(五〇〇〇円~一万円)構成比一〇%◇御膳/ランチ(一四〇〇円~三〇〇〇円)構成比一五%
◆プロフィル
千葉利彦社長/昭和35年、青森県出身、三八歳。この人のキャリアは風変わりだ。十和田市の高校(三本木農業)を出て上京。昭和53年拓殖大学を卒業。大学では相撲部にいたということもあって、青森に戻って三沢市役所土木課に勤務したが、肌が合わず三年目に再上京。大学時代の先輩の仕事を手伝ったり、割烹屋に勤めたり、三、四年は生活が定まらずにいたが、縁があって一〇年前、二七歳の時に畑違いの食品スーパーたじまに入社。たじまでは鮮魚部門を担当し、鮮魚のプロとして実績を積んだ。これが現在のいけす料理につながってくる。平成元年11月、オーナー(田島良雄氏)の娘田島孝子さんと結婚して、実質的に事業を牽引していくことになった。