チェーンストアのここに学べ:「日本KFC」発展の秘訣
チェーンストアを生業店の方が見ると「何だ繁盛している割においしくないじゃないか。うちの方がよっぽどおいしいのに」と思われる方が多いようだ。しかし、おいしいフランス料理は数多くあるが、チェーン化ができないのなぜだろうか。数多くの店を開くためには数多くの顧客が必要なのだが、商圏内の人口には限りがあるし、増加するわけでもないので、来店頻度を高める必要がある。フランス料理は高級で胃に重い。毎日食べると財布はもとより胃袋もきつい。当然、来店頻度は低くなる。店舗展開には大きい商圏が必要で、チェーン化は難しいのである。
しかし、味噌汁とご飯は毎日食べても飽きない。「商いは飽きない」と同じで、毎日食べても飽きのこない味を出すことがチェーン化の秘けつなのだ。
一九五〇年代、カーネル・サンダースが、ケンタッキー州カービンという町の州道沿いにモーテルとガソリンスタンドを経営していた。旅行客のためにモーテルの横で「サンダースキャフェ」という食堂を開き、朝食から夕食まで数多くの料理を提供していた。なかでも南部でポピュラーなフライドチキンに人気があった。
ところが戦後になると、ハイウエーの建設ラッシュで店舗前の通行量が減少し、商売が行き詰まった。そこで、顧客に人気のあったフライドチキンの調味料を売出し、やがては調理法から経営法までも指導するFC経営に発展した。これが世界最大のフライドチキンチェーン「KFC」の誕生である。ではFC発展の秘けつを見てみよう。
KFCの最大の特徴は、TVCMでおなじみの圧力釜を用いた特許による調理方法だ。その原理を見てみよう。
オープンフライヤーで調理した場合、肉温が七〇度C以上になっても骨の内部温度は六〇度Cぐらいで、骨から血色の髄液が流れ出して食欲を減少させる。一八〇度Cの油温でフライしても、常圧では水は一〇〇度Cで沸騰するので、水分がある限りは品温を八〇度C以上にすることは難しい。肉の温度を上げようとすると、肉は水分を失ってかたくなってしまう。
卵とミルクで作ったバッターと香辛料を混ぜたブレディングで鶏肉の表面を覆い、それを一八〇度Cの油で満たした圧力釜に入れふたをする。すると、鶏肉の表面が狐色(キャラメライズ)になって固まり、内部のうまみ成分が流失しない。
加熱されたチキンから水蒸気が出て、釜の内部の圧力が上昇し、水の沸点が上昇するため、加圧の程度に応じて一〇〇度Cよりも高い温度でフライ材料を短時間加熱することができる。一・八五~二・〇気圧でフライすると、水の沸騰温度は一一六度C~一二一度Cになり、肉の内部温度は九〇度Cに容易に達する。そのため、骨から肉離れよい柔らかい肉質となる。髄液も八〇度C以上になって固まるので、流れ出ることはない。骨の黒ずみや髄液のにおいもなく仕上がるのである。
チキンを入れてから数分で油温は下がってくるが、火力は一三〇度Cぐらいの低温を保つ程度の弱火で良い。その温度でも、水の沸点が一一六度C以上なので肉の調理は十分に行える。省エネルギーの調理法でもあるのだ。
圧力釜を使用することによりおいしい調理をアルバイトでもできるようになった。どんなに有名なフランス料理でも、シェフが代わると味が落ち評判も落ちる。シェフに頼ると味を標準化できないということだ。個人芸に頼っていてはチェーンとはなり得ない。
シェフがいなくても一流の味を出せるシステムを確立できたところが、チェーンになりうるのだ。その意味で、KFCの圧力釜採用は、味を良くするとともにアルバイトでも調理できる標準化を可能にした。
圧力釜の採用は、世界最大のフライドチキンチェーンに成長する原動力となったわけだ。
KFCは原材料のチキンも自分たちで最良の品質を保てるように考え出した。チキンは生後四五日の中ヒナ、中抜きの丸一・二㎏を使う。あまり大きくなると肉質がかたくなり、においも強くなるからだ。また、なるべく新鮮なチキンを使うようにした。さらにチキンのカットを一般的な八カットから九カットに増やして、食べやすく値段を下げることにも成功した。
特許の必要な調理機器や調理法を編み出しても、特許が切れたとき簡単にまねされるのでは困る。そこで、鶏の飼育から処理加工までライン化した生産システム「チキンのインテグレーション」という技法を編み出した。日本でも数多くのレストランチェーンがフライドチキン業界に参入したが、KFCには追いつけなかった。KFC同様の良質な原材料を安定確保できなかったからである。
さらに、独特の一〇種類以上のスパイスを調合し飽きのこないさっぱりとした味を実現した。味の標準化を実現するために、調味料と塩を調合した状態で店舗に配送するようにした。店舗では専門のバッター液とブレディングを使用することで、いつでもどこでも同じ味を実現した。この調味料の事前調合は、味の標準化はもとよりレシピーノウハウの流出防止にも役立った。
圧力式のフライヤーは一回の調理で、必ず一定量のチキンを調理する必要があり、顧客の要望に合わせて、一個だけ調理するわけにはいかない。そのため、保温庫に一定時間保温し、保温時間内に販売するようにした。これによりサービスのスピードも上がり店内飲食だけでなく持ち帰りのビジネスも獲得することが可能になった。KFCは、いま流行のHMRの先駆者ともいえるのだ。
KFCの成功要因は、商品を日常的かつ安価なフライドチキンに絞ったことだ。ただし、ほかの人が入手できないような品質の良い鶏を、まねのできない調理法と味付けで、アルバイトでも調理できるようにしたことが重要なポイントといえる。チェーンになるためには、優れた調理と味付けが大切だという典型的な例といえよう。
チェーンから学ぶことは多々あるが、そのチェーンから何を学ぶか明確な視点がはっきりしていなくてはならない。また、チェーンから学ぶと言っても、巨大チェーンになった現在のやり方を学ぶと副作用があるので注意しなくてはならない。
チェーンレストランも一つの店を成功させ、二店、三店とこつこつ店舗を開店し、チェーンとなっている。皆さんの店舗と同じ規模のころに何をしていたかを学ぶことが大切だ。次に学ぼうとする分野をしっかり分類し、その分野で最も優れたチェーンから学ぶのが秘けつだ。どんなに成功しているチェーンでも得意不得意があるからだ。チェーンが一店、二店のころから多店舗展開するには、何か必ず他店と比べて優れたノウハウや、成功の方程式を編み出しているはずだ。そのノウハウと、成功の方程式を抽出しなくてはならない。
学ぶべき分野の分類はQSC、人、物、金の六項目だ。
Q(クオリティー)とは品質のことであり、調理のノウハウや原材料の管理、品質管理など幅広く含む。Sはサービスのことで、主にスピードアップのノウハウや、ドライブスルー、宅配などの革新的なノウハウを意味する。Cとはクレンリネスのことで店舗の清掃を合理的にどのように行っているか、洗剤や機材はどんなものを使用しているかを意味する。
人の管理とは、社員の教育体系、アルバイトの短期育成などが含まれる。物とは店舗建物や調理機器、設備などの維持管理の手法で、これをうまく管理しないと水道光熱費や修繕費がかかるし、設備の寿命も短くなる。金とは売上げと利益管理だ。どんなにおいしい料理を出しても売れるものではない。おいしい料理と店の場所を宣伝することが必要になる。そして当たり前のことだが利益を十分に出す必要がある。そのためには利益管理をどのように行うか、人件費、原材料管理をどのように行うかも大変大事だ。
チェーンを目指さなくとも前記の分野のうち、最低二ヵ所のノウハウを構築すると皆さんの店舗の収益性が向上し、従業員の定着性も良くなるはずだ。
((有)清晃代表取締役・王利彰)