ヒットメニュー開発講座:ラーメン

1998.07.20 156号 8面

日本人の麺類好きには定評があるが、なかでもラーメンの人気は圧倒的で、文句なしの麺類の王者といって良いだろう。たかがラーメン、されどラーメンというわけで、大衆的価格の日常食でありながら、うまいラーメン店には長蛇の行列がひきも切らず、うまい店ありと聞けば車を駆ってでも試さずにはおかないというファンも珍しくない。

今や、一億総ラーメン評論家となったかの感もあるが、これだけポピュラーな料理であるが故に、その好みも千差万別。超人気のラーメンも、そのパターンは一様ではない。ファンの圧倒的多さ故に、かなりマイナーで、マニアックなものであっても、それなりにヒットする素地があるのが、この商品の面白いところ。

マスコミ受けする突飛なアイデアで一発当てるのも可能だが、やはり、一過性で終わらない息の長いヒットメニューを作るには、ベーシックな部分での強烈なこだわりが必要になる。

こだわり(1)スープ

第一のこだわりポイントはスープだ。スープの味こそがラーメンの最も重要なパートであり、「麻薬的な味」のスープは最も端的、かつ強烈にお客を引きつける武器となる。

スープの味は、あっさりタイプから脂ギトギトのこってりタイプや豚骨スープなどいくつかのタイプがある。いずれのタイプを選択するにしても、肝心なのは味に「深み」があることだ。味の奥深さを感じさせるためにはまず、獣骨系と魚介系のうまみをミックスさせる手法がおすすめだ。

鶏がらや豚骨でとる普通のタイプのスープでも、鰹節や昆布、乾ホタテ、するめといった魚介系のうまみを加えてやると、驚くほど味に深みが加わり、独自のスープを作ることができる。

また、最近の人気のタイプとしては、野菜の甘みとうまみを強調したものも狙い目だ。特に、洋風のブイヨンの手法を応用して、玉ネギ、ニンジン、セロリ、ニンニク、リーキなどを多めに使って作ると、複雑で混然とした甘さと風味のあるスープになる。

さらに、隠し技としておすすめしたいのは、スープに「厚み」を加えるためのゼラチン素材の使用。牛の筋やアキレス腱、豚足、鶏の脚などのゼラチン質を多量に含んだものを加えて作ることで、不思議な厚みを感じさせるスープとなる。

こだわり(2)麺

第二のポイントは麺の工夫。麺の太さや食感は好みの分かれるところで、何がベストとは言えない。けれども、やはり他店と比べて明らかに異なる個性がなければヒット商品は生まれない。

どのような麺にするかはスープの味とも密接に関連している。あっさりとしたタイプのスープには、からみの良い細麺、こってりスープには太麺という基本はあるものの、それにこだわる必要はない。要はバランスの問題で、すすり込んだ時の口中での麺とスープの味がちょうど良く感じられるのがベストというだけだ。

技術的には難しいけれど、細麺でありながら食感があり、食べている間中はのびることがない、という麺は極めて少ないだけに、個性を追求する向きにはおすすめだ。

自家製麺ならば原料の小麦粉そのものの工夫にチャレンジしたい。特に、中国地方の国産地粉の中には、のびに極めて強い種類があるので試してほしい。

こだわり(3)具材

第三のポイントは具材の工夫。すでに超有名になったネギラーメンや特大チャーシュー麺、一面に海苔をのせた海苔ラーメン、台湾風の煮卵ラーメンなど、繁盛店のメニューがコピーされた人気メニューは多い。

また、高級具材を使ったアワビラーメンやフカヒレ、北京ダックラーメンといった話題優先型も多い。変わったものでは、豚足の煮込みを丸ごと入れたものや、鶏の脚の醤油煮(もみじ)をのせたものなど、具材の話題性でヒットしているケースはたくさんある。

中には、ごく普通のラーメンでありながら、白菜を具材としてスープとともに煮込むという手法と、独特の白菜の甘みの出たスープが人気を呼び、超ヒットメニューとなった例もある。変わった具材はうまく当たれば大ヒットとなる可能性はあるものの、全くの空振りとなることもある。

打率を高くしたいのなら、ポピュラーな具材で強力な差別化を狙うことだ。チャーシューひとつでも、その工夫次第でヒットメニューを生むことができることを知ってほしい。

■筆者紹介■ 押野見喜八郎(おしのみ・きはちろう)FSプランニング代表。外食企業・食品会社の経営、商品開発コンサルタントとして活躍中。専門である商品政策やメニュー指導では第一人者としての定評がある。「ヒットメニュー全科」(商業界)、「喫茶店経営改善ハンドブック」(柴田書店)など著書多数。業界誌でも健筆をふるう。

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