チェーンストアのここに学べ:ハンバーガーは“おにぎり”だ(下)

1998.07.20 156号 16面

語源とその歴史

ハンバーガーの語源は、ドイツのハンブルグという地名からきているといわれている。ドイツ料理にタルタルステーキというのがある。牛の生肉を細かくチョップして生のまま食べる料理である。ちょうど韓国料理のユッケと似ている。このタルタルステーキを焼いたのがハンバーグである。

このハンバーグが移民により米国へもたらされ、万国博覧会でそのハンバーグをパンにはさんでサンドイッチにしたのを売出し、ハンバーガーと名付けたというのが、ハンバーガー誕生の通説である。

バーベキューとして炭火で焼くのが伝統の調理方法であるが、それをレストランで提供するのは、煙が多く安全上むずかしかった。そこで、代わりに鉄板のグリドルで焼くようになってきたのである。

網でハンバーグを焼くのはこつがいって大変難しいが、鉄板であるとひっくり返すのも簡単であり、中の肉汁も内部に閉じ込められ、肉のロスが少なく一般的な調理方法として普及してきたのである。

第二次世界大戦の前から、米国では車社会となりつつあり、また、新天地である西海岸への人口の移動が発生した。これにより、ドライブインレストランが増加していったのである。そこで新しいサンドイッチであるハンバーガーは人気者になったのである。

カリフォルニアのある町で、ディックとマックというマクドナルド兄弟が一九五〇年に、まったく新しいファストフードレストランを考案した。今までのドライブインレストランと異なり、ウエートレスや陶器の皿を使わない、セルフサービス方式のドライブインレストランである。これが現在のマクドナルドの原型である。

そこでは、一種類のハンバーガーとフレンチフライ、シェーク、コーラという限定メニューであった。シェークを作るマルチミキサーのセールスマンをしていたレイ・クロックが、マクドナルド兄弟の店と出会い一目ぼれし、兄弟からマクドナルドの権利を買い取り、シカゴのディスプレインというオヘア空港からすぐ近くの町に一号店を開いたのである。

現在は博物館として、当時そのままの姿を保存してある。そのレイアウトを見ると現在のマクドナルド社の厨房と余り変わらないので驚く。それだけ、マクドナルド兄弟の考案した厨房の設計は素晴らしかったのである。

マクドナルド兄弟は、テニスコートに原寸大のレイアウトを描き作業性を検討したといわれている。その素晴らしいシステムに、優秀なセールスマンであり、人に対する偉大なモチベーターである、レイ・クロックが出会ったのが、マクドナルド社が今日まで生き残り、世界最大のレストランチェーンとなった秘密である。

もちろんマクドナルド社の成功を、指をくわえてみているわけはなく、続々とチェーン店が出現した。バーガーシェフ、バーガーキング、ハーディーズ、ウエンディーズ、カールスジュニアーなどであり、ハンバーガーチェーンのビジネスは巨大なものになった。

調理機器と調理方法

ハンバーガーの調理にはグリドルと、バンズトースター、作業テーブル、ホールディングビンとに分かれる。そのほかに、フライヤー、飲物のシェークフリーザー、コークディスペンサー、コーヒーマシンなどである。

ミートパティの調理方法は二種類ある。鉄板タイプのグリドルを使用するのが、マクドナルド、ウエンディーズ、ハーディーズなどのハンバーガーチェーンである。グリドルは簡単であり、他の朝食メニューの卵料理などを調理でき、汎用性が高いので最も一般的に使用されている。また、厚さの異なるミートを焼く場合でも、時間を長くすれば良いのでメニューの多角化には向いている。

しかし、グリドルの場合は片側を焼いた後ひっくり返す必要があり、重労働で調理時間が長いという問題がある。それを解決するために、サンドイッチ方式の鉄板で、ミートパティを上下から挟んで同時に焼くという、クラムシェルグリドルが開発された。

日本でも採用され出しているが、やや問題があるようである。上下から挟むときにその間隔が正確でないと、生焼けが出たり、焼け過ぎでドライなミートになったりするのである。機械とミートパティそのものの精度は〇・一ミリメートルを要求されるのである。

もう一つの方法は伝統的なバーベキュー直火タイプのオーブンにコンベヤーを組み合わせ、上下から自動的に焼くシステムである。このコンベヤーグリドルを使用するのは、バーガーキングとカールスジュニアーである。

九二年度の米国のベストの新商品は、バーガーキングのバーベキューチキンサンドイッチ「BKブロイラー」である。これは伝統的なバーベキュータイプの直火焼きのコンベヤーグリドルの良い面が最大限出ているサンドイッチであるといわれている。

アッセンブル・ツー・オーダーシステム

従来のレストランの調理システムは、オーダーが入ってから調理をする、クック・ツー・オーダーであった。ハンバーガーは出来たてで温かく品質はよいが、調理に時間がかかるという欠点があった。

しかしながらいまだにその利点を生かしているチェーンはある。米国ではカールスジュニアー、日本ではモスバーガーであり、手作りの品質の良さを訴え成功しているのである。

マクドナルドの初期のころのメニューはハンバーガーが一種類であり、そのため全メニューで一〇品目くらいであったのである。そのためハンバーガーを事前に調理してウオーマーに保管しておき、オーダーがあったらすぐに提供できるようにしていた。これをストック・ツー・オーダーシステムと呼ぶ。

このシステムでテークアウトのビジネスを成功させることができ、かつドライブスルーのような新しいビジネスチャンスを物にすることができたのである。

しかし、チェーンができてから一五年もするとお客さまは、大型サンドイッチやソースの異なるサンドイッチ、チキンサンドイッチ、朝食メニューや多国籍料理を望むようになった。そのため多くの商品を保温する必要があるが、商品の保管時間を過ぎて破棄する必要が出たり、製造に時間がかかりサービングタイムに問題が出るようになった。完成品のサンドイッチとして保温しておくと、ソースや肉汁がバンズに染み込んでしまうという問題が出てくる。そこで、調理に時間がかかるミートなどを事前に焼いておき、それを正確な湿度コントロールができる保管庫に保管しておく方法が出てきた。

これにより、焼いたミートを三〇分から一時間も保管することができ、作業が分散化し商品の破棄も少なくなり、オーダー後の商品のサービングタイムが格段に早くなるというメリットが出てきた。これをアッセンブル・ツー・オーダーシステムと呼ぶ。現在では、多くのチェーンで採用されるようになってきている。

ハンバーガーは、簡単な食事ではあるが、買うのに待たせない、サービスのスピードが速い、ドライブスルーなどの車を降りないで買えるシステムがあるなどの、サービスのスピードが一番のノウハウだ。短時間で調理が提供できるシステムを常に開発しており、それがハンバーガーチェーンの売上げを伸ばしている最大の原動力になっている。

決め手はスピードより品質

マクドナルドの採用したアッセンブル・ツー・オーダーのシステムは、ステージングシステムとして全店舗に採用され、サービス時間の短縮に大きな効果を収めたが、マクドナルドはここで大きな間違いをおかした。

焼いたミートパティを挟むバンズはトースターで焼いてからホールディングキャビネットで保管するが、客に提供する前に保管したミートパティを挟み、包装してから電子レンジで再加熱する。どうせ再加熱するならバンズをトースターで焼く必要などないではないか、という論理だ。

バンズを焼く理由は、切り口を高温の熱板で焼き、焦げ目を付けて(キャラメライズという)肉汁や、ケチャップなどの調味料がバンズにしみこまないようにするためだ。水分がバンズにしみこむとべちゃべちゃになり、おいしくなくなるからだ。同時にバンズを温めておいしく感じさせるのも重要だ。

そこで、電子レンジで温めるのだから、バンズに肉汁がしみこまないような工夫をすれば良いではないかということで、バンズに品質を変え、トーストしないようにしてしまった。

しかし、トーストによって香りが失われたり、バンズの触感が変わったということでだんだん消費者の人気がなくなり、昨年度の調査ではチェーンの中で最もハンバーガーの品質の評価が低くなってしまった。

その間に競争相手の一つであるウエンディーズは品質の改善を進め、九六年にインアンドアウトに奪われた品質一番の座を奪い返していた。その結果、マクドナルドの売上げと株価は低迷を続けていた。

また、既存店の売上げの低迷を補うため続けていた米国内における積極的なマクドナルドの新規出店戦略が、フランチャイジーの既存店に対する売上げを浸食し、ジーの間に不満が大きく膨れ上がっていった。

マーケットの今後

そのジーの不満に、とうとうマクドナルドが動き始めた。それが、今年2月に開催されたフロリダオーランドのディズニーワールドで開かれたコンベンションにおける新調理システムの発表だった。

品質を向上するために電子レンジでハンバーガーを再加熱することを中止し、商品の温度を高く保ち、かつサービング時間を短縮する新しい調理システムを開発したのだ。今後数百億円をかけて既存店の厨房を改造するとしている。

さらに、経営トップの入れ替えを行った。国内を担当したエド・レンジ氏と、CEOだったマイク・クインラン氏の代わりに、ジャック・グリーンバーグ氏がCEOにつくという発表を行った。

経営トップが代わったことで、今後のマクドナルドは積極的なメニュー開発や、財務面の改善を行うと思われ、またまたハンバーガー業界に旋風が巻き起こされそうな勢いである。このマクドナルドの動きを反映して低迷していた株価は一気に上昇している。

日本ではマクドナルドの独り勝ちの状態であるが、米国の状況から見て、マクドナルドにできない商品の特徴を生かし、かつ、積極的な出店を行うチェーンが出てくると、米国のように活気が生まれ、再度市場は大きく伸びるのではないだろうか。

ハンバーガーチェーンの食材は、牛肉、豚肉、鶏肉、魚、小麦粉、野菜と世界中から安定して確保でき、もっともポピュラーであり安定した利益を出すことが可能だ。やり方によっては今後まだまだ大きく広がるジャンルだろう。

((有)清晃代表取締役・王利彰)

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