シリーズ今年の中部外食=高山編:大衆割烹「寿楽久」
名古屋を中心とした愛知・三重・岐阜の外食チェーンの輪が、いよいよ飛騨の高山にも広がる気配。都市圏より数年遅れで着実に高山にも大手の波が押し寄せてゆく。果たして、小規模個人店はその波にのみこまれるのか、生き残れるのか。今回は高山篇として地域一番店をめざす元気のいい店、レストランをたずね、繁盛の理由を聞いた。
観光客があまり通らない静かな路地にある「寿楽久」。大半が地元の客で、一度来れば必ずリピーターとなる。
のれんをくぐると「いらっしゃいませ」の人なつっこそうで明るいおかみさんの声。そしてカウンターの上に並べられた作りたての一三種類の料理が目に入る。カウンター内では一徹そうなご主人が黙々と料理づくりにいそしんでいる。そこで、初めて入った大半の客は「来て良かった」と思う。マニュアルどおりのサービスが少々うるさいと感じられる時代に、ご主人とおかみさんの醸し出す空気にホッとさせられる。
「創業以来、いい素材を少しでも安く食べていただこうとやってきた」だけあって、お客さんはおいしい料理を少しだけ食べたいという味のわかる中高年齢層がほとんど。女性客も四割を占めるというのもうなずける。
この店の大きな魅力はご主人のつくる料理だが、まずざっと紹介したい。
新鮮な日本海の魚介類の刺身、焼き物、珍味、酢の物、揚げ物、蒸し物が定番。それも驚くほど種類が豊富だ。刺身だけでもタイ、カレイ、ハモおとし、ズワイガニ、甘エビ、アワビ、シマアジ、カツオ、アジ、バイ貝、アオリイカ、赤貝、白魚、シャコ、サヨリ、タコぶつ、生ウニ。
ほかに焼き物がキンキ、八目、イワシ、アジ、カレイ、甘ダイ、タラ、焼きズワイ、焼きフグ、サザエ、ホタテ、バイ貝、大アサリ、カキ。さらにホタルイカ沖漬、イワシ沖漬、カニ味噌ズワイガニ、イクラ醤油漬、蒸しアワビ、このわた、イクラ梅漬、ウド味噌漬、焼きカニ味噌などの珍味も用意する。
本日のおすすめ料理では「ジャガイモとアワビのゴマいため」「揚げ穴子みぞれ煮」「湯葉シューマイ」「揚げなすとろろかけ」「だし巻き」「あん肝」「飛騨の牛料理」など、素材の組み合わせに工夫をこらしたこの店にしかないものばかり。料金も五〇〇円~六〇〇円とお値打ちだ。
都会のアルバイト・パートの顔しか見えない居酒屋が多い中で、主人とおかみさんご夫婦の人柄や存在感を魅力の一つに、客との信頼関係を地道に築いてきたといえる。
◆大衆割烹「寿楽久」=高山市朝日町二四番地、Tel0577・33・0353、営業時間午後5時30分~11時、日曜休み、客席数三〇席、平均客単価六〇〇〇円