名古屋版・繁盛店ルポ:ネバーランド日本、正当な民族料理

1999.06.21 180号 12面

古い商店街を入り下町風のなつかしいにおいがする住宅地の中に、見過ごしてしまいそうな「ネバーランド日本」がある。唯一目印になるのは、店の前にネパールの旗がはためいていること。

もともとアンティークの店を経営していた花穂(かほ)恒子さんが、古い民家を改装して開店したのが一九九三年。商売柄、古い貴族のレシピをひもといたりすることも多かった彼女が、ネパールやインドの料理が何世紀も時代を超えて今に通じる医食同源の心を持ち得ていると共感してつくった。

そのため、大きなテーマは「自分の子供が食べて元気になれるもの」。もちろん料理へのこだわりは並大抵ではない。また、「皮膚呼吸している体にもいい店づくり」が基本コンセプトになっており、気楽に自然体でくつろぐことができる空間だ。

インド料理店と名がつく店でも、母国で昨日まで畑を耕していたような人がにわか料理人となり演出に一役買っているだけというケースが多い中、花穂さんは最も食材が集まるカトマンズで二〇年コックをしていたネワリ民族のマルカル・プラーディープさんを連れてきた。

来日した当初、まず彼が驚いたのは日本のインド料理が辛いこと。「南インドで、冷蔵庫もなく腐りかけの料理をごまかすために辛くしがちなのはわかるが、日本では必要以上に辛くする必要もない。単なるショーアップですね」と話す花穂さん。「日本人への見せかけのこびは通用しない」と手厳しい。

そんなわけで、「うちは家賃が安い分お客さんに還元できる」とばかり、市場でえり抜きの旬の素材がシェフのアイデアで本格ネパール・インド料理になる。前日に予約をすれば、シェフのおまかせコース三〇〇〇円、四〇〇〇円、五〇〇〇円がお値うちで食べられる。

アルコール類にしても、ここでしか飲めない珍しいビール、ワインなどがずらり。とっておきはネパールのククリラム。家内制手工業でつくるため、サトウキビの糖度が毎年異なることで国から許可が下りず、手で運んでくるという。エタノールが入っていないノンコントロールの酒だ(ボトル二〇〇〇円、ワンショット五五〇円)。

さて、開店して六年がたった。客層はよく海外旅行をして各地のオリジナル料理を食べた経験のある人が多い。報道関係者、医者が中心とか。立地条件が良くないにもかかわらず、口づてに人が人を呼んでいる。

花穂さんは「まだまだ試行錯誤の段階」と謙遜。アイデアを見つけに定期的に海外の旅に出る。テーブルに置かれる毒消しのためにハーブを入れた水差しはイスラエルのレストランで見つけたことに感じ入って、まねさせてもらっている。

去年、モロッコの宮殿のような総ガラス張りレストランで食べた、土鍋炊きのズッキーナ味噌煮込みが気になっているらしい。

◆ネパール・インド料理「ネバーランド日本」(ねばーらんど・にほん=名古屋市中村区下中村町一‐一二一、Tel052・483・4307)営業時間午前11時30分~午後2時、5時~10時、客席数三五席、客単価三〇〇〇円

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